月とスッポン  牛に引かれて
身軽になってしまった。

車に向かって歩く大河に背を向け、水路沿いをゆっくりと歩き出す。

水の力なのか、少しだけ気温が下がった気がして気持ちがいい。

ゆっくりと水の流れに逆らうように歩いていく。

「置いていかないでください」
「置いていくも何も、視界は良好じゃないですか」

振り向けば、大河越しに私の愛車が見える。

「突然穴に落ちるかもしれないじゃないですか」
「逆にこんな場所に穴があって落ちる方がびっくりだよ」

「芝生は歩きにくいので転ぶかもしれません」
「イヤ、歩いてるの芝生じゃないし」

目を離したら落ちるし、転ぶし

って、私は園児か!

少し歩けば、公園に佇む電車が見える。

木張の床になっている昔の電車に乗り込む。

昔の電車ってこうなってるんだ

そう感心しながら、棚の高さや運転席を覗き込む。

「初めてなのですが、どこか懐かしい感じがしますね」
「私は新鮮ですけどね」

あっ、また可愛くない返事をしてしまった。

「乗った事はないのですか?」
「電車にですか?」

ふっと笑いながら返事をする。
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