月とスッポン  牛に引かれて
 美術館に足を踏み入れれば、光あふれる開放感はまるで高級避暑地にある上品な別荘のようだった。

描かれた作品をゆっくりと観ながら歩く。

所々に展示されている絵本を手に取ってみる。

こんな可愛らしい絵本を読んでもらった事も、プレゼントされた事もない。

きっと幸せな人が溢れ出る幸せを絵にしていたのだろう。

そう思っていた。

でも、大変な時代に波瀾万丈があって書き上げていたと思うと、少しホッとする自分が嫌いになる。

それでも、恵まれた人生だ。
そう思ってしまう自分が嫌いだ。

大河の姿を探してみれば、近くで一冊の絵本を手に取り、ゆっくりとページをめくっていた。

「ピーターラビットですか?似合うような似合わないような」
「絵本に似合う似合わないってあるんですか?」

「さぁ。ただ絵本よりも図鑑とかの方が似合う事は確かだと思いますよ」
「男の子はみんな図鑑は好きだと思いますよ」

とクククと笑っている。

「ただ懐かしいなぁと思いまして」

ペラペラとページをめくりながら、話を続ける。

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