月とスッポン  牛に引かれて
松本の街並みを眺めながら、皇居を一周歩いてみるかと東京の街並みを思い浮かべる。

空と山との境界線は、当時の人達も見ていたに違いない。

松本城の姫様もこうやって見ていたのかなぁ?

なんて思いを馳せていたから、

「はい。一緒にまわりましょうね」

と言う大河の言葉も「そうですね」と流してしまった。

これが大きな間違いだと私は気付かなかった。

「ちなみに」
「ちなみに?」

「天守は住居ではありませんよ」
「ん?」

「お城はあくまでも敵から身を守るための軍事的防御施設です」

大河による松本城案内ガイドはまだ続いているようで、

「ここから見える庭園内の黒い線は、瓦で仕切ってあり本丸御殿の跡地です。で、その奥に見える木が沢山ある場所が二の丸後殿跡ですね」
「ほぉ。で?」

「あそこが住居です」
「知ってるし」

私の空想を見破られたと思うと恥ずかしくてしかたない。

慌てて否定するも、全てわかってますよと微笑む大河が憎らしい。

思いを馳せるのは、個人の自由で立ち入り禁止区域じゃないか!
それを土足で踏み込んできて!腹立たしい。

睨んで見ても、どこ吹く風で「姫様、お手を」なんて言いやがる。

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