月とスッポン  牛に引かれて
すっかり慣れた手つきで私の愛車を走らせて行く。

ん?

「私、長野に行くって言いました?」
「茜からは聞いていません。達哉さんから聞きました」

「はぁあ」

驚きで太い声が出る。

「そろそろ遠出をするだろうと予測は立ててたのですが」
「ほぅ」
立てたのかよ

「来週から出張が入っていまして、早く2・3ヶ月、長くても半年程身動きが取れなくなってしまいますので」
「へー」
そのまま拘束されてしまえ

「その前に茜と出かけたいと思っていたので、達哉さんに相談したんです」
おぅ、相談する人違いませんか?

「そうしましたら、『今週なら大丈夫だ』と言って頂いたので」

最後まで聞くに耐えれない。

「聞くなら私に聞くのが筋ってもんじゃないんですか?周りから来る感じ、ちょっとムカつくんですけど」
「茜に直接聞いても教えてくれないじゃないですか」

拗ねた口調で言われても、可愛くない。

「教える必要あります?」

「そんな寂しい事言わないで下さい。一緒に奈良に行った仲ではないですか」

どんな仲だよ。

ちらっと大河を見てみれば、目が合いすぐに顔を戻す。

楽しそうに笑っているよ。
こいつ絶対に悪いと思っていない。

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