月とスッポン  牛に引かれて
手を叩き「天井の木に頭をぶつけてしまえ」と、せめてもの抵抗をしてみる。

「本当にぶつけそうで気を付けているのでやめてください」

なんて言いながらも、笑ってやがる。
あぁ、腹立たしい。

「本当にぶつけてしまえ」
ともう一度小さく呪っておこう。

その後無事に?大河は頭を打つける事なく、月見櫓まで降りて来た。

誰もいない事をいいことに、2人並んで座る。

青空の向こうに見える夜空を思い浮かべながら。

「ここで月見をしながら、飲んだら最高でしょうね」

そう、私が呟けば

「どこかいい月見が出来る場所を探しておきます」

と大河が呟く。

「ありがとうございます」

私がニコッと笑って答えると、少し驚いた顔をしたので

「海と一緒に楽しみますね」

と付け加えれば、すぐにガッカリな顔に変わる。

これで、一矢報えただろうか?

入り口に人の気配を感じ、立ち上がる。

いつまでも貸切しているわけにもいかない。最後にともう一度外を眺めながら大きな伸びをする。

「さっ、達ちゃんに頼まれた買い物をして帰りますか」
「何を買うのですか?」

「日本酒です。」

スッと立ち上がり、大河を見下ろす。

「ここから15分ぐらいの場所なので、チャチャっと行って帰りましょう」

手を差し伸べてみる。

大河はふっと嬉しそうに微笑んだ気がした。

私の手では意味がないと引っ込めようとする前に、大河に引っ張られる。

< 60 / 101 >

この作品をシェア

pagetop