月とスッポン  牛に引かれて
大河の力に勝てるはずもなく、大河に勢い良く抱き抱えられる体勢になる。

くっといたずらが成功したと笑い、私の肩を抱いたままで出口へと歩き出した。

「驚きましたか?」
「そりゃ、突然引っ張られれば驚きますよ」

「驚いたんですね」
なんて嬉しそうな顔で言うんだ。

危ないからと自分がお堀側を歩きながらも、軽く私に体をぶつけてくる。

こいつは何がしたいんだ?

私がお堀側にいて、落とすフリをするのなら話はわかる。
ブチ切れ案件だけれども。

でも、私は安全な場所を歩き、すれ違う人が通り過ぎると、軽く体当たりをしてくる。

まじで意味がわからない。わかっているのは、

「いい加減ひつこいですけど」

やりすぎている事に気づいたのか、ハッとした後、

「すみませんでした」

と大河がしょぼくれた。

「一体何がしたいの?」
「なんだか楽しくなってしまって」

しょぼくれた大型犬がいる。今までブンブンと振っていた尻尾が、垂れているのが見える。気がする。

「小学生か」
「小学生なんですか?」

なぜそこを疑問視する。

「こんなくだらない事が楽しいのって男子小学生ぐらいじゃないんですか?知らないですけど」
「そういうものなんですね、知らないですけど」

大河の真似をして軽く体をぶつけてみる。面白さが1ミリのわからなくて、逆に笑える。

「ね、なんか楽しいでしょ」

とでも言いたそうに、大河がまた私にぶつかってくる。

「楽しくありません」とぶつかってみる。

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