月とスッポン  牛に引かれて
家に着くまでが

ここは一旦、置いておいて。
達ちゃんからの任務を遂行しよう。
うん、それが1番だ。

鞄の中から、達ちゃんからのお預かりした名刺を取り出す。
名刺の裏に、店と達ちゃんのSNSのQRコードがあるのをもう一度確認して車から降りた。

興味深々で、建物を見ている大河を無視して、呼吸を整える。

さぁ、これは仕事だ。

「こんにちは」

中に入ると、販売を任されている女性が出てきた。

「いらっしゃいませ」

名刺を渡し、
ここの写真を店のSNSにあげていいか。
季節酒は何があるか。
などを確認していく。

奥からまた1人男性が出てきた。

「“葛木”さんの方ですか?」

蔵元さんだ。

サクッと聞いて、サクッと買って帰る予定が、蔵元さんの登場で、一気に緊張する。

「はい。佐山と申します。突然、訪問申し訳ありません」

深く頭を下げ、改めて自己紹介をする。

「こちらに来る機会がありまして、葛木の方から、是非ここのお酒を買ってくるように言われまして」

訳わからない言い訳をする。
自分でも何を言っているかわからない。

「それはありがとうございます。葛木さんのSNSはいつも拝見させて頂いていて、うちの酒が載った時は皆に自慢したのですよ」

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