月とスッポン  牛に引かれて
「正暦寺以外のお寺でも、醸造を試みたそうですが唯一成功したのが正暦寺だそうです。そこにしかいない乳酸菌の力だそうですよ。
詳しくは知りませんけど、不思議ですよね。
あっ、でも少し酸味があって甘い傾向があるので飲みやすさと求めるのなら、やっぱり奈良だったら“風の”は外せないですよね。
“風の”の発泡酒は、名高いのスパークリングにも引けを取らない味わいですよ」
「買えば良かった」と呟く大河の姿に調子に乗る。

「まぁ、基本奈良は濃厚甘口が、長野は綺麗なすっきりとした淡麗酒って言われていますけど、それは言われていると言うだけで、単なるそういう蔵が多いってだけですしね。
奈良は菩提元や古米などを使った日本酒本来の味わいから、日本最新と言われている蔵までありますし。
長野は上下に長く山間集落が多く点在していて、その集落ごとに酒蔵があったって言われるぐらいなので今でも多くの酒蔵が残っているので、蔵数は日本で2位なんですよ。多い分、各蔵の個性が豊かですね。
長野のお酒を堪能するなら“夜明け”とかがおすすめですけど、“真澄”なんかも有名ですよね」

高速に乗り、買いに走るにはすでに遅いタイミングで言ってみる。

項垂れる大河が可愛い。
だから、さらに調子に乗ってみる。

「長野はワインも有名ですよね。日本のワインって言えば、山梨の“勝沼”だったり、北海道の“ドメーヌ”だったりしますけど、“小布施”のワインなんかは、国内外で高評価を得ているみたいですし、入手困難なのも頷けます」
「日本酒、ワイン」と呟く大河。

そんなに凹む案件なのか?

「まぁ、東京で手に入らない銘柄なんてありませんから。どんまい」
「ですよね」

大河のテンションが上昇する。

「達哉さんに聞けば、手に入りますよね」
「そうですね」

私が返事をしているのに、「達哉さんに聞いてみよう」とひとり納得している。

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