月とスッポン  牛に引かれて
「そうなんですか。たとえば?」
「たとえば。有名なのは“剣”ですかね」

「有名なんですか?」
「有名ですよ。年配の男性なんかは、酒は“剣”って言う人も少なくないんじゃないですか?
それに“剣”は忠臣蔵の赤穂浪士達が討ち入りの前に飲んだお酒ですし。彼らが最後に飲んだお酒。何を思って何を感じ飲んだのだろうと思うと、味、気になりませんか?」

「気になります。そんな前からあるんですね」
「“剣”は1505年に創業しています」
「安土・桃山時代ですね」

そうなのか。無視って話を続けよう。

「大阪冬の陣で豊臣家が滅んだ時、山形で一つの蔵が酒造りを始めました。それが今では日本のトップに君臨する“十”です。なんだか、ロマンを感じませんか?」
「感じます」

心ここにあらず。そんな感じで返事をする大河。
本当に感じているのか?

「それとか米を削れば削るだけ良いとされていました。それは、米の周りの不純物を取り除く事で綺麗なお酒が出来るからです。その分削ったカスが出るわけで。それを様々な形に加工して処理していました。でも、そこにも経費がかかるわけです。
そんな中、不純物のない米を作れば削らなくても良いし、カスも出ないと考えた蔵があります。精米歩合90でも、純米と変わらないほど綺麗な日本酒も増えてきました。90%は白米とほぼ同じなので、飲む白米です。味、気になりませんか?」
「気になります」
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