月とスッポン  牛に引かれて
家に到着して、大河に部屋の鍵を渡す。

「達ちゃんのところに行ってくるので、先に部屋に入っていて下さい」
「えっ、いいんですか?」

「見られて困るものも、壊されて困るものもないんで。適当に座っていて下さい」

階段を登っていく大河を確認して、店の裏口へと入って行く。

達ちゃんがニヤニヤしている。

「裏切り者」

私の発言を無視して「おっ、ご苦労様」と購入した日本酒を取り出す。

「領収書は明日でいいから」

日本酒を嬉しそうに抱え、冷蔵庫へとしまう達ちゃんに
「ビール貰ってくから!」と叫ぶ。

完全なる負け犬の遠吠えだ。

ビールを片手に部屋に戻る。

玄関の扉を開ければ、律儀に中に入らずに立っている大河がいた。

「立ってないで、中に入ってもらえませんか?」

壊れたロボットのように大河が後ろを振り向く。

「何ですか、この部屋は」
「人の部屋に来て第一声がそれって酷くないですか?」

大河を避けつつ、中に入る。
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