月とスッポン 牛に引かれて
間話
博学の真相 side 部下 中山武
地味に真面目に生きてきました。
自分の好きな事を好きだと認めてくれる家族と仲間に恵まれて、一流と分類される会社に入社出来、充実した毎日を送っていると自負しています。
会社はあくまでも、自分の趣味に、趣味を分かち合える恋人との生活に躊躇する事なく投資出来る給与を貰えれば、それで十分で。
出世したいとか華やかな世界で活躍したいなんて思った事は一度もありません。
ですが、人生とはままならないものらしい、です。
現社長のご子息であり、当社の若手ホープであり、次期社長とも言われている本部長が僕の目の前に座っています。
端正な顔立ちに高身長、高学歴。
交わる事のない一軍の男が僕の目の前に座っています。
仕事が終わり、いつもの場所で、いつもの集いに参加しただけなのに、本部長が僕の前に座って微笑んでおられます。
一番乗りだと意気揚々と乗り込んで、読みかけの本を読みながらゆっくりとみんなを待っている予定だったのですが。
扉が開く音に振り向くと、本部長が一人立っていました。
慌てて立ち上がり「お疲れ様です」と頭を下げました。
「仕事とは関係がありませんので、そんなに硬くならないで下さい」
そう言われても、上司という以上に、男女問わず華やかな人と話すのは緊張します。
座るように促されました。
「何をお読みになっていたのですか?」
僕が読んでいた本を見ながら、僕の目に腰を下ろされました。