月とスッポン  牛に引かれて
次々と自分の得意分野を言う彼らに「経理の鈴木尚さんですね」とか「営業3課の志村君」とか本人が名乗る前に名前を言い当てる本部長に皆が気をよくしていくのが手に取るようにわかります。

「城の攻略については私だ」

常務の登場に皆が立ち上がりました。

「城めぐりをする為に早く引退したいんだよ。頼むよ」

常務は本部長の肩に手を置き、笑いが起きます。
そういう常務も紹介を終えるとすぐに城談義に花を咲かせ始めました。

いつの間にか人がいっぱいになっていて、本部長に自分の知識を推しを自慢しつつ、好きな物を食べ、好きの物を飲み、いつも通り自由なディスカッションをあちらこちらで繰り広げられているようです。

「そして私は歴史書と実際の出来事を照らし合わせるという沼にハマっています」
「それはまた特殊ですね」

自己紹介はこれが最後と言わんばかりに彼女が自分の紹介を始めました。

特別秀でる専門分野も特別の推しもいない僕は、紹介する程の人物ではない事は重々承知していています。

と思っていたのですが、彼女が急に僕を後ろから抱きしめられました。

「なので、ター君は渡しません」

驚いて彼女を見ると、顔が赤くなりお酒の香りがします。

「誰ですか?彼女にお酒を飲ませたのは」

お酒を飲みと抱き付き魔になる彼女は、極力飲まないようにしている事をメンバーは知っているはずです。

慌てて犯人を探せば
「私です」
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