月とスッポン  牛に引かれて
「行って現地で買うというのが醍醐味ではないのですか?」
「行って買って帰るという意味なら醍醐味でもなんでもないです。
 日本酒と限らず多くのお酒はその土地の人がその土地の料理と共に飲むモノです。それに合う様に造られています。なので、郷土料理とその土地の地酒を飲むというにならば醍醐味になるんじゃないんですか」

「そういうものなのですね」
「向こうで飲んで美味しかったから、買って来たけど家で飲んだらそうでもなかったってよく聞きますよ。まぁ、地酒と流通限定酒を分けている蔵もありますからなんとも言えないですけどね」

手水舎で身を清め、階段を登っていく。

「それにちゃんとした酒屋で買った方がちゃんとした状態の日本酒が手元にくるんですから、酒屋で買った方がいいんじゃないですか?」
「そうなんですか?」

「そりゃそうでしょ。お酒は振動や温度状態で劣化する事だってあるんですから。中には設定された温度の冷蔵庫がないと卸しませんって蔵もあるぐらいですから。プロに任すのが1番じゃないですか?ワインだって、輸入されるに厳しい決まるがあるって聞きますよ」
「そうなんですね。それにしても茜は物知りですね」

「お客に説明する為に覚えただけですよ」
「ちゃんと勉強していて偉いですね」
「一応、仕事なんで」

こんな事で褒められるのは照れくさい。

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