月とスッポン  牛に引かれて
慶太郎が求める答えではなかったようだ。
何を求めている。恋愛的な?
それはないだろ。

昨日の夜何気なく読んだライト小説の一文が頭を過ぎる。

『彼は上に立つ人間だ。お前なんかが横に立てる人じゃない。身を弁えろ』的な。

気まずい雰囲気を打破する為、話題を探す。
と言っても、コイツとの話題なんて海についてしかない。

「そういえば、おめでとうございます」

深々と頭を下げた。
いまいち反応が悪い。意味が通じていない。説明を入れる。
「海に聞きました。籍入れるって」
「あぁ、その事か」

慶太郎はどうでもいいと言わんばかりの言い方にカチンとくる。
まぁ、私もあんたに事なんだどうでもいいけどな。
でも、

「着飾った海は可愛いだろうなぁ」
「海はどんな格好でも可愛いに決まってる」

いや、それはわかっているけど、軽く惚気られているけど、言い方!

「彩華さん、海の花嫁姿が見れて嬉しいだろうなぁ」

「ドレス姿もいいけど、白無垢なんかも似合っちゃうんだろうなぁ」

そう呟けば、「両方見せる予定だ。俺が両方見たい」なんてちゃっかり惚気る。

「これでまた元気になって、海の赤ちゃんを抱ける様になるかなぁ」
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