月とスッポン  牛に引かれて
「宴もたけなわとなりましたが」

と言う司会の言葉が入り、
社長に代わり、退社を発表した元常務からのジョークに富んだ締めの挨拶でお開きになります。

しかし、例年からいけば、“迎え待つ”と言う名目で話し足りたい人の歓談時間となるのです。
そのため、あちらこちらで会話が続いている様です。

私は、役目も済んだ事なので帰りましょう。
でも、その前に。

さぁ、これで安心してお家に帰れます。

ハンカチをしまいながら、ロビーを横切ろうとすると、常務が連れて来られた女性が華やかに着飾った女性の集団に囲まれています。

これは少しよろしくない状況のようです。
取り巻きを連れた華やかな赤いドレスを着た女性は、あの会社の令嬢ではないでしょうか?

確か常務のお相手候補と言われている方だったかと思います。

あぁ、どうしましょう。

私にはあの中を割って入る勇気はありません。
しがない会社員の私には無理です。

なので、この場を見守るつつ、顔見知りの方に常務を呼んでくるようにお願いをいたしました。

私にはそれが精一杯です。


「大河様の隣に立つには立場というものがあるのではないかしら?」

煌びやかに着飾った令嬢たちに囲まれて、固まっている女性。
下を向き、少し震えている様に見えます。
そうでしょう、怖いですよね、私も怖いです。

「私が、私が来て欲しいとお願いしたんです。
あーちゃんは、彼女は悪くありません」

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