月とスッポン  牛に引かれて
常務より早く駆けつけた社長のお嬢様、海様が女性と令嬢の間に割って入られました。

彼女の震えている様に見えます。
ご友人の為に勇気を振り絞ったのでしょうか。
素晴らしき友情です。

「そういう問題ではありません。
あなたのお誘いならば、来たとしても壁の花になるべきだと言っているんです」

百戦錬磨の令嬢たちに、小娘など勝てるはずもありません。

やはりこれ以上、騒ぎが大きくなる前に、年配者の私が中に入るべきでしょう。

息を整え、歩き出そうと一歩を踏み出した瞬間の事です。

「ヤバい」

海様の腕に捕まり、やっとの事で声を発する女性。

やばいですよね。怖いですよね。
ヤバいの多様性は娘から学習済みです。

では私も仕切り直して一歩を思っていると、肩を叩かれました。
振り返れば常務です。
常務の向こうには、私がお願いした方がいます。目で合図をしあいました。

これでこれ以上大事になる事はないでしょう。
ほっとしました。

しかし、は令嬢達は我々には気づいていない様子ですし、目の前にいるはずなのに海様達の目にも入っていないようです。

なので、会話は続いているようです。
常務は仲裁に入るタイミングを見計らっております。

「海、ヤバい。どうしよう」
「あーちゃん、私もちょっと震えてる」

そうでしょう、そうでしょう。怖いですよね。

「私、ちょっと死んでくるわ」

「えっ」

話を聞いていた人間の声が重なりました。

コンビニに行くかのように死ぬと言う女性に皆が引いています。

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