幼馴染から助けてくれた常連さんに囲い込まれました。
今まで耐えて、嫌なことは全部飲み込んできた。そんな美夜が初めて両親の前で和樹を拒絶した。

が、両親は深く溜息を吐き母は美夜を見つめた。失望の色を纏った瞳で。

「我儘言うんじゃありません。何が不満なの、うちみたいな普通の家庭から次期社長の妻になれるのよ?大学卒業後は美夜を青山フーズに入社させてくれるし、お父さんだって良いポストに就けるのに」

(…ああ、本命はそっちか)

青山家と縁戚関係になることで父は重役の席を約束される。美夜が受け入れれば家族皆が幸せになれる、と母は言っているのだ。

多分その幸せの枠内に美夜は入っていない。

(お父さん達は私が苦しもうがどうでもいいんだ)

美夜は今すぐ叫び出したい衝動に駆られるが、寸でのところで耐え「考える時間が欲しい」と告げた。母はすぐ承諾しない美夜に難色を示してたが、父は了承してくれた。

父ならば話せば分かってくれるか、と一瞬希望を見出すもすぐ諦める。美夜と和樹が婚約することで1番恩恵に預かれる立場の父が、美夜の意思を尊重してくれるとも思えなかった。

結局のところ、元凶と話をつけるしかないのだ。部屋に戻った美夜はすぐさま電話をかける。相手はすぐに出た。

『なんだよみ』

『どういうこと!婚約とか付き合ってるとか!なんであんな嘘つくの?お父さん達乗り気なんだけど!』

開口一番怒りを露わに叫ぶ美夜に、電話の向こうの和樹が面倒くさそうな溜め息を吐いた。

『そのことか?親戚連中が婚約者を決めろって取引先の令嬢や自分の娘を勧めてきて、鬱陶しかったからお前の名前を出した』

『なんで』

『親戚が勧めた相手と結婚したら将来的に口を出してくるのが分かりきってる。お前なら面倒なしがらみがないし、今更取り繕って相手の機嫌を取る必要もなくて楽だろ』

(何それ)

和樹は昔から外面が完璧だった。実の両親相手でさえ優秀で聞き分けのいい人間を演じてきた。その反動で親の立場から逆らえない美夜に辛く当たって鬱憤を晴らしてる節がある。

青山フーズの次期社長の婚約者となれば、然るべき家柄の然るべき教育を受けたお嬢様だろう。そんな相手に美夜に対してと同じ態度を取るわけにはいかない。結婚したらずっと外面の良い人間として接し、相手の家からの干渉にも対処する必要がある。

美夜はそんな彼にとって実に都合が良い。父はポストを約束すれば必要以上に経営に口を出さないだろうし、取り繕う必要のない美夜を今まで以上にサンドバッグに出来るのだ。
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