幼馴染から助けてくれた常連さんに囲い込まれました。

その後予定通り合コンに参加し、必死だとバレないように参加した男子と仲良くしようとした。その涙ぐましい、とまで言えない努力の結果1つ年上の他大学の男子と連絡先を交換することに成功。

メッセージのやり取りをし、休みの日に出かけたりもした。これはいける、と勝利を確信していた美夜、だったが…。

「え?また連絡取れなくなったの?」

合コンから数週間後、大学のカフェテラスで項垂れる美夜に紗奈は不思議そうな顔をする。

「2人で出かけて、メッセージのやり取りも頻繁にしてたのに?」

「…急にメッセージの数が減って、ついには既読すらつかなくなった。未読スルー」

「うわー、距離取るにしろもっとやり方あるでしょ」

紗奈はそんな不誠実な奴を合コンに呼んでしまったことを謝った。

「謝らなくていいよ、やっぱ私じゃ無理だなって思ったんだと思うよ…」

「そんなこと言わない、美夜可愛いんだから自信持って…というかさ。今まで良い雰囲気だった男子、急に手のひら返して連絡取れなくなったんだっけ?」

「うん」

「…全員が全員手のひら返すって中々ないよ?」

「それは私に魅力がないから」

「だからそういうこと言わない。何か出来過ぎっていうか、作為的な物を感じる」

美夜は顔を挙げ、真剣な顔で考え込む紗奈と目を合わせた。

「作為的って何?」

「誰かが美夜と仲良くなりそうな男子に手を回して、仲良くなるのを阻止してる、とか」

「「…」」

「ないない、そんな漫画みたいなことないよ」

「だよね、私も自分で言ってて飛躍しすぎだって思ったわ」

2人は声を上げて笑う。確かに美夜も一度、ここまで振られ続けるのは何かおかしいと感じたこともあった。が、美夜が男子と仲良くするのを阻止して誰に、何のメリットがあるというのか。非現実的過ぎてすぐに疑問は消えた。

結局のところ、最初はいいなと思っても関わっていくうちに彼らの中で美夜は「ない」に分類されてしまう。それだけのことだ。続くと段々自分に自信が持てなくなるが、仕方がない。友人や両親は美夜に気を遣って可愛いと言ってくれるが、自分のことは自分が1番理解してる。

振られ続けるのも当然な程、美夜には女性として魅力がないのだ。


バイトがあるから、と紗奈と別れ大学の正門に向かって歩いていると。

「美夜」

自分を呼ぶ、とても聞き覚えのある声が聞こえそのまま無視したくなる。が、無視すると後々面倒なことになるのが分かりきってるので足を止めた。

「…和樹くん」

出来れば顔を見たくなかった幼馴染、和樹がいた。スラリとした長身に明るく染めた茶髪、端正な顔立ちの男子。いつも女子に囲まれてる彼が今日は1人だった。イケメンで大手食品会社の御曹司、そして誰にでもニコニコと優しく紳士的に正確な彼は人気者だ。

「何辛気臭い顔してんだよ、ただでさえ暗いのに更に暗くなってんじゃん。見てて気分下がるわ」

だが、美夜だけは優しく接する対象から外れてるようで微妙に傷つくことを言ってくるのだ。

初対面の頃から「お前、全然美しくないのに美夜って名前なのかよ」とゲラゲラ笑い繊細な子供心を傷つけた前科を持つ和樹。美夜は出来れば関わりたくなかったのに、親同士の仲が良く父親も青山フーズに勤めてることから繋がりを断つことが出来なかったのだ。

例の彼と連絡が取れなくなって、追い打ちをかけるように更にダメージを与える男と出会ってしまったことで美夜のテンションは更に下落する。

「…辛気臭くてごめん、何か用?」

「何だよその言い方、どうせ振られたと思って慰めに来てやったのに」

そして当然のように和樹は美夜のプライベートな事情を把握してる。慰める、と言ってるが彼の言う慰めは美夜の知ってるものとは大きな隔たりがあった。

「毎度毎度、どうせ無駄なのに合コン行って結局振られて。学習能力ないのかよお前」

和樹が鼻で笑ってくる。小さい棘がグサリと心に刺さった。

「いつも言ってるだろ、お前みたいな地味なやつが背伸びして合コン行っても恥かいて終わりだって」

彼は美夜が合コンに行くことが気に食わないらしく、いつもやるだけ無駄、努力するだけ無駄だと言ってくる。

「…別に、合コン行って和樹くんに迷惑かけて」

「迷惑とかじゃなくて、美夜のために言ってるんだ。似合わない化粧して似合わない服着て、男漁っても何の成果も得られてない。その分他のことに時間使えよ」

和樹は、美夜のためだと言ってこちらの努力を認めようとしない。無駄だと切り捨てる。確かに彼の言うことは間違ってない。背伸びして流行りの服を着て、化粧もバッチリ決めて望んでも、待ってるのは同じ結果。

(…無駄なのかな、やっぱり)

俯いて何も言わない美夜に和樹は更に畳み掛ける。

「あとさ、その服何」

「…服?」

今日着てるのはノースリーブのブラウスにデニムの膝丈スカート。友達と買い物に行って似合うから、と買ったもの。可愛くてお気に入り。

「太い二の腕晒してさ、恥ずかしくないのかよ」

美夜は咄嗟に二の腕をさする。

「ふ、太くない。友達は細いって」

「そりゃ馬鹿正直に本当のこと言わないだろ。友達が言わないから俺が言ってやってるんだ。その友達も、美夜を晒し者にしたくて似合うとか言ったのかもな」

友達を悪く言わないで、と反論したいが声が出ない。一緒に行った子は美夜よりスタイルが良く細い。二の腕が微妙にプルプルしてる美夜と違って、無駄な肉がない。

そんなわけないと思うのに、和樹の言葉が毒のように心の中を侵食する。

和樹に言われて、みんな自分に気を遣ってると思って好きだったフリルのついた服も足を見せる服も着なくなった。

彼は言い方こそきついが、本当のことを言ってると思ってる。

地味なくせに必死にオシャレしてみっともない。知り合った相手と連絡が取れなくなるのは、接していくうちにみっともない美夜に嫌気がさしたからではないか。

(もう、やめようかな。合コン行くの、出会いを求めるの)

昔から誰かと愛し愛される関係になりたいと憧れてた。それ程高望みをしてはいなかったはずだ。しかし良い加減、望みを捨てたほうがいいのかもしれない。美夜は諦念の気持ちを抱いたまま、バイト先に向かった。
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