幼馴染から助けてくれた常連さんに囲い込まれました。
「…俺を置いてさっさと帰るつもりか、酷いな」
あんなに愛し合ったのに。寝起き特有の掠れた声、気怠げなカイの顔を至近距離で浴びた美夜はドキッとした。今さっき自分の気持ちと決別したつもりだったが、そんな決意が簡単に揺らぐ。が、すぐ我に返り彼の腕の中で踠く。
「あ、あの、私帰らないと」
「帰って、例の幼馴染と婚約するのか」
「はい、そうすれば、丸く収ま」
「駄目だ」
「ギャ!」
逃がさないとばかりに強く抱きしめられて、美夜は色気のない悲鳴をあげる。
「かか、カイさん」
「君が他の男のものになるなんて耐えられない…彼のことが嫌いなんだよな」
「まあ…はい」
「なら、俺と結婚しないか」
「はい⁈」
予想だにしないカイの言葉に美夜は素っ頓狂な声を上げた。笑い飛ばそうとするが、彼の顔がとても真剣で、自分を見つめる瞳に確かな熱を感じ、美夜はカイが冗談を言ってるわけではないと悟った。
「な、なんで、私一度思い出が作れたら良かったのに」
混乱する美夜が震えた声で言うと、カイは徐にこめかみに口付けた。