幼馴染から助けてくれた常連さんに囲い込まれました。

美夜のバイト先は大学から程近い喫茶店だ。オーナーの柏木は20代後半くらいの男性で、格好良く気さくで話しやすいため結構バイト志望の人が多いらしい。今は美夜を含めて4人のバイトが勤めてる。

レトロな雰囲気漂うお店はオーナーが祖父から受け継いだ。前オーナーでもある彼の祖父は孫に店を託し悠々自適なセカンドライフを送ってるらしい。美夜は大学の帰りにたまたま店の前を通り、こんな喫茶店で働いてみたい!と勢いで面接を希望、無事採用されて今年2年目だ。

美夜はこの店が好きだ。雰囲気も同僚も、そして…。

時刻は19時過ぎで閉店1時間前。カランコロン、と入口のベルが鳴り入ってきた客の顔を見たオーナーが声をかけた。

「カイ、いらっしゃい。いつものでいいか?」

「ああ、頼む」

ワックスで整えられた黒髪に切長で涼しげな瞳。怜悧で整った顔立ち、薄く形のいい唇。見上げるほどの長身を包むのは仕立てのいいスーツで今は暑いから脱いで腕に持っている。

見るからに出来るサラリーマン、なオーラを纏わせている男性はオーナーから「カイ」と呼ばれてる常連客だ。オーナーの中学からの友人で、本名は知らない。オーナーはカイとしか呼ばないし、客の個人情報をバイトが聞くわけにもいかないからだ。

美夜はカウンターに座ったカイに水とおしぼりを持っていく。その時目が合ったカイは冷たい印象を与える表情を僅かに綻ばせた。

「カイさん、こんばんは」

「桜井さんこんばんは、今日も遅くまで頑張ってるんだな…」

とカイはオーナーに鋭い視線を向ける。

「いや、俺シフト詰め込んでないよ?ちゃんとしてるから、ブラックじゃないから」

弁明するオーナー。どうやらほぼ毎日いる美夜の労働環境を心配してくれたらしい。

「そ、そうです。オーナーは無理なシフト組んだりしませんよ」

「…そう?なら良かった。顔色があまり良くないから、てっきりバイトのしすぎで疲れてるのかと」

(え)

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