幼馴染から助けてくれた常連さんに囲い込まれました。
「ん?あ、確かに桜井さんちょっと顔色悪いね…よく気づいたなカイ」

感心したように呟くオーナーにカイは「まあな」と素っ気なく返す。美夜は内心ドキッとしていた。件の彼と連絡が取れなくなり、それについて悩んでここ数日寝不足だったからだ。それでも皆に心配されないよう化粧で誤魔化したつもりだったのだが。

(カイさん細かいところよく気づくな)

カイと初めて喋ったのは1年半年前、オーナーが「凄いやる気のある新人が入った」と美夜を紹介したのだ。何でもオーナー目当ての不真面目なバイト志望が多く、店に惚れて働きたいと言った美夜はとても新鮮に映ったらしい。

『喫茶店でバイトするの初めて?まあ柏木はそこまで厳しくないから、気負わなくて大丈夫。コイツ寧ろ抜けてること多いから気をつけて』

『いやいや、俺そんなに抜けてないよ?不安がらせること言うなよ』

仲良いんだな、と思わせるやり取りを美夜は微笑ましい気持ちで眺めていた。

美夜はこの時、初対面の自分を激励してくれたカイに対し憧れのような気持ちを抱いた。が、それが恋に発展する前に自分で芽が育たないようにした。

年上のサラリーマン。仮に好きになったところで無駄だ。自分のような地味で取り柄のない人間が好きになること自体、分不相応な相手。

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