幼馴染から助けてくれた常連さんに囲い込まれました。
「そ、そうですよ。カイさんもオーナーもおじさんって感じしません」
「…そういうものか」
「そうだよ、お前真面目すぎるんだ」
オーナーは肩をすくめる。そして美夜に視線を向けた。嫌な予感がする。
「でさ、桜井さん的にカイはあり?なし?」
「だからやめろ、困ってるだろ」
(どうしよう…)
オーナーの口調からして本気で聞いてはいない。ならばこの雰囲気に乗じてさらりと本音を明かしてしまってもいいのでは、と美夜の中のもう1人の自分が囁く。
そして美夜は決心する。
「ありですね、というかカイさんをなしって言う女性いませんよ」
美夜はその他大勢の中の一意見、の体で笑いながら言った。こういう言い方をすれば、曲がり間違っても本気だと受け取られることはないだろう、と見越して。
「だよな、コイツ学生時代も死ぬほどモテてたんだよ」
オーナーは乗っかった。美夜の返事を所謂人気者に熱を上げる類のものだと受け取ったようだ。変に邪推される気配はない。
「…そうか、ありか」
「ん?カイ何か言った?」
「いや、何も?」
美夜がホッとしてる間にこんな会話が交わされていたが、当の本人は聞いていなかった。
その後、オーナーはカイに美夜が「あり」か「なし」かを尋ねることは流石にしなかったので、この話題は曖昧なまま終わった。美夜は軽いノリとはいえカイのことを「あり」だと言い切ったことが恥ずかしかった。しかし、カイの態度は当然ながら全く変わらないので美夜は望みがゼロだと改めて突きつけられ、内心地味に凹んでいる。
もう無理に恋人を作ろうとせず、心の中でカイを憧れの人として推していた方が余程精神衛生上良い気がしていた。
この時の美夜は、あんなことが起こるなんて全く予想していなかった。