海辺で拾った美男子は住所不定無職!?養っていたら溺愛されました
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 切れ長だけど少し垂れた瞳は、まるで子犬のようで。
 大きな黒目が私をまっすぐ見つめて、目が合うとにっこりと笑う。私もつられて口角が上がる。
 意外にもたくましい腕が、後ろから私をすっぽりと囲い込んで、優しく抱きしめてくる。背中から伝わる温もりが心地良い。

 何かが満たされる感覚。

 ああ、この人が住所不定無職じゃなかったらな。

 お金は大事だ。一生懸命働くことだって、大事。
 そのどちらもないこの人を、心の底から軽蔑したいのに、どうしようもなく惹かれてしまう──。

***

 始まりは、新緑の季節。

 爽やかな風と暖かな陽光、雲ひとつない青空に、白い煙が登っていく。

 両親が揃って事故で他界した。ただ一人残されたのは、十歳の私。葬儀の間ずっと泣いて泣いて泣きすぎて、最後には呆然とその白い煙を見つめていた。借金を抱えていたらしい両親が、自分の意思で事故を起こしたのかは分からないまま。ただ、一つはっきりしていたのは、私は置いて行かれたということ。
 漆黒の服を着たその日から、私は暗闇の中にいる。

「いやよ! どうしてこの子といっしょなの!? あっちいって!」
「こら繭、そんなこと言わないで。ごめんよ灯ちゃん」

 私、小笹灯(おざさあかり)は、両親を失って叔父夫婦に引き取られた。そこには一歳年下の(まゆ)という一人娘がいて、繭は私が一緒に住むのを最初から強く拒否したのだった。

「繭、ほら、灯お姉ちゃんだよ? よくお正月に会って遊んだだろ?」
「いや!」
「まーゆー。頼むよ〜」
「いやっ!」

 繭は私の一つ下だがとても幼く、独り占めしてきた叔父達を取られてしまうと思ったのだろう。彼女は私を毛嫌いした。叔父は申し訳なさそうに私の頭を撫でる。叔母は終始、繭のご機嫌取りをしていた。

「灯ちゃん、すまないね。でも今日から君の家はここだから。いいね?」
「……はい」

 叔父夫婦は優しい人達だった。叔父の小笹瑛二(おざさえいじ)は父の弟にあたる。遺産目当てで寄ってくる親族や両親の残した借金の取り立てから、私を守り通してくれた。遺産はほぼ全て借金の返済へと消えてしまったにも関わらず、私を養女にすると決めてくれた。実の娘である繭の拒絶に心を痛めながらも、天涯孤独となった私を放り出したりはしなかった。
 
 私は幼いながら彼等に恩を感じる一方で、どうしようもなく申し訳ない思いを抱きながら生きていくことになった。

「灯お姉ちゃんなんか大キライ!」

 叔父夫婦が私に優しくするたび、繭は私を強く拒絶した。その度、叔父が諭すのだが、繭は反抗してばかり。叔父も叔母も、そんな繭に対して強く叱ることなく優しく接していた。しかし彼女の癇癪もワガママも、どんどん底知れぬほど酷くなっていく。
 さらに、私に対しての嫌悪は留まることなく、学校など親の目が届かない場所で嫌がらせが始まった。
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