海辺で拾った美男子は住所不定無職!?養っていたら溺愛されました
 早速アポを取り、私は得意先の『相模原商事』にやってきた。相模原社長は私よりも十歳以上年上で、一度離婚経験があると聞いている。蛇のような目つきの苦手な社長だった。叔父も一緒についてきてくれている。

「やぁ。灯さん、久しぶりだね」
「ご無沙汰しております。この度は──」

 早速お詫びしようとしたが、相模原社長は優雅に応接ソファに座ると私の言葉を遮った。

「ああいいんだ。小笹社長からも説明を受けて、君の責任じゃないことも理解してる。でも君のせいだって言ってきた社員は、君のこと悪く思ってるのかな? 灯ちゃんを貶めようとするなんて酷いやつだね。そんな奴がいる会社に居づらいよねぇ」
「……ご理解いただきましてありがとうございます」
「ああいいんだよ。灯ちゃんのことは僕が一番分かっているからね。そこで名案なんだが、僕のところに来ないかい?」

 きた。この申し出を断ってしまえば、叔父の会社は損失を被る。

「得意先の社長夫人になれば、あいつらを見返してやれるよ? 僕のお嫁さんにならない?」
「お嫁……さん」
「社長、それは!」

 叔父が断ろうとしてくれているのを、そっと目線で遮った。

「灯さんが僕の妻になってくれるなら、今回の損失については一切の責任を問わないことにするよ」
「!」
「考えておいて。でもなるべく早めに返事が欲しい。期限はそうだなぁ、一週間」
「承知、しました……」

 今日この場で約束させられると思っていたので、猶予を貰えただけで嬉しかった。あと少しだけ、聡さんと一緒にいても許されるだろうか。この期に及んでまだ聡さんのことばかり考えている。
 やっぱり、私の幸せは一瞬で終わるのだ。期待してはいけない。だけど、もう一生分の幸せをもらった気がする。絵が完成するのがいつか分からないけれど、そっとSNSで見ることくらいは許されるだろう。それだけで、十分だ。
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