海辺で拾った美男子は住所不定無職!?養っていたら溺愛されました

 携帯の着信音で目が覚めた。
 カーテンの隙間から差す朝日は、すでに眩しい。だが時計を見るとまだ早朝だ。
 自分のものではない着信音を聞いたのは、聡さんが家に来てから初めてのことだった。しかし彼は、電話に出ずに電源を切った。

「起こしちゃった?」
「出なくてよかったんですか?」
「うん。迷惑電話だから」

 そう言って携帯を遠くに投げると、彼はまた私の狭いベッドに入り、ぎゅっと抱きしめてくれた。素肌をぴたりと合わせるのが気持ち良いなんて、聡さんと会って初めて知った。

「灯ちゃん、今日何食べたい?」
「たまには私が作りますよ。何が食べたいですか?」
「……うーん。やっぱりもう少しこうしていよう」

 そうしてキスの雨が始まった。早く打ち明けなくちゃと思いながらも、幸せに溺れて言えずにいた。

 結局、昼過ぎまでベッドにいた私たちは、買い出しをすることにして外出を決めた。だが、アパートから出た途端、聡さんが立ち止まった。彼の視線は向かいの道路の方に注がれている。私もそちらを見ると、黒塗りの高級車が止まっていた。

「ごめん、ちょっと出かけるのやめない?」
「え……?」
「冷蔵庫にあるもので何か作るよ」

 そう言うと足早に私の部屋に戻っていく。今朝の電話といい、さっきの高級車といい、聡さんは何か隠している。
 
「聡さんのお料理美味しいです」
「ありがとう」
「結局作ってもらってすみません」
「灯ちゃんも結構手伝ってくれたでしょ。一緒に料理するのも楽しいね」
「はい」

 二人で穏やかに食事をとった。聡さんは何も言わない。電話の相手が誰なのか、高級車の中に誰がいたのか。困っているのか、辛いのか。ただ優しい微笑みを携えて、私のそばにいてくれる。
 これ以上、望んではいけない。身体は重ねたけれど、心は許されていない。

一度も「好きだ」と言われてない。

 そう気付いてしまえば、もう決意は固まった。私はまた、いつも通り諦めていた。
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