海辺で拾った美男子は住所不定無職!?養っていたら溺愛されました
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「……お話が、あります……」
テーブルを挟んで座る。聡さんの背後に、私がモデルをした未完成の絵が置いてあって、余計に切なくなった。しかしもう決めたことだ。
突然に決まった縁談のことを、意を決して打ち明けた。聡さんは驚いて目を見開き、そして途中から考え込むように眉間に皺を寄せている。
「俺は、君の恋人になれたんだと、思ってた」
「……違います。落ち込んで、弱っていた私を、かわいそうに思ったんですよ。だから慰めてくださったんだって、思ってました」
卑屈すぎる言葉に、聡さんは何も言わない。流石にもう呆れられたのかもしれない。いやだいやだと泣いたくせに、結局繭の思い通りに動くのだから。しばらく沈黙が続いた後、聡さんは私の手をそっと握った。
「!」
「相手の男のことが、好きなの?」
そんなことを聞くなんて、狡い。貴方が一番分かっているはずだ。私が誰を好きなのか。
答えられずに下を向く。泣きたくない。もう、泣いて慰められたくない。
しばらく沈黙が続いた後、ポツリと聡さんが呟いた。
「俺は、灯ちゃんが好きだよ」
「!」
「灯ちゃんは、俺のこと、好き?」
頷きたい。本当の気持ちはYESだ。好きだと言われて、こんなに嬉しいなんて。雅人さんの時は感じなかった、湧き上がる喜び。でも、私は叔父の為、会社の為に結婚する身だ。頷いてはいけない。
聡さんは絵を描く時のように、真剣な表情をしていた。意志の強い瞳が、私を貫いて、嘘をつけなくしていく。みるみる溜まっていく涙で、視界がぼやけた。泣きたくないのに。でも、嘘をつきたくない。離れたくない。聡さんの隣にいたい。
涙が零れ落ちる前に、聡さんがふわりと笑った気がした。立ち上がり私の目の前にやってくる。
「んん!」
彼は私の手を強く引きよせて、激しく唇を奪った。聡さんは「結婚をやめろ」なんてことは言わず、ただただ私の名前を呼び、「好きだ」と繰り返し愛を囁いた。その日は激しく気を失うまで、求められ続けたのだった。