海辺で拾った美男子は住所不定無職!?養っていたら溺愛されました


 叔父と話した後、二人で私のアパートに帰ってきた。スーツを着た長身の聡さんが、こんな小さなアパートにいるなんて今まで以上に違和感がすごい。

「黙っててごめんね」
「あの……助けてくださって、ありがとうございました」
「あ、あの……」
「でも、私のせいで、聡さんの夢が……!」
「違うよ。画家になる夢よりもっと、大切なものを見つけたから」
「でも!」

 聡さんがまた微笑んだ。私を黙らせる微笑みだ。ずるい。

「まだ正式に継ぐわけじゃない。他の役員や株主達に認めてもらわなくちゃいけないからね。しばらく忙しくなる。落ち着いたら俺の両親にも会ってほしい」
「……でも……」

 聡さんは、未完成の彼の絵を愛おしそうに眺めた。私がモデルの絵をそんな目で見てくれて嬉しい。でも、本当はまだ画家として活動したかったんじゃないの? 本当に御曹司なのだとしたら、私なんかを妻にしてはいけない人なのでは? 
 色んな疑問が駆け巡るが、何も言い出せなかった。

「あの絵も、灯ちゃんが持っていてくれる?」
「……はい……」

 あと少しで完成しそうな、私の絵。昨日まであの絵を見て泣いていた私は、今は戸惑っている。
 また連絡すると言い残して、聡さんはどこかへ出掛けて行った。
< 23 / 26 >

この作品をシェア

pagetop