海辺で拾った美男子は住所不定無職!?養っていたら溺愛されました
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ザザーン ザザーン

 私はまた、いつかのように海を眺めていた。

 あれから小笹コーポレーションの負債も無くなり、相模原社長は聡さんに何か言われたのか静かになった。繭は、スーツ姿で現れた聡さんに衝撃を受け、私が聡さんに結婚を申し込まれていると知って大変な悔しがり方をした。叔父はいよいよ繭に手をつけられなくなり、彼女を暫く叔母さんの実家で療養させることにしたそうだ。

 結局叔父の家族を壊してしまった。そして、聡さんからも連絡はない。

 私は、誰にも言わずに会社を辞めて、引っ越した。海の近くの小さなアパートに今は住んでいる。もう、誰にも迷惑をかけたくない。ひっそりと、聡さんとの思い出を宝物にして生きていくのだ。

ザザーン ザザーン

 波が押しては引いていく。海を見ると、聡さんの絵を思い出す。あの絵は、結局新しい家にも持ってきてしまった。聡さんのことを、好きだった気持ちまでは、捨てることができなかった。急に姿を消して、聡さんは怒っているだろうか。少しは悲しんだだろうか。恨まれているだろうか。彼の夢を奪ってしまってごめんなさい。その上、あなたの人生まで縛ることなんて、私にはできない。

 引っ越してからずっと、時間があるときは海を眺めている。

 そしてずっと、聡さんのことを、考えていた。
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