転生したら出オチで事件を解決した話
(私、ロキシウス様の元婚約者になってる⁉)

 ロキシウスが登場する恋愛小説では、彼が王立学園三年生のときにヒロインが編入してくる。そしてその一年前に、ロキシウスの婚約者であり恋人でもあった少女は亡くなっている設定だった。

(ということは、今のロキシウス様は小説より一歳若い十七歳で……私も同い年か)

 小説でロキシウスの婚約者は、レッツェ伯爵令嬢としか表記されていない。そんな名前もないモブではあるが、何故亡くなったかについては明かされていた。
 ヒロインが(さら)われ薬を飲まされそうになったところを間一髪助けに来たロキシウスは、「また守れないかと思って怖かった」と口にする。そのときに彼の口から過去の事件が語られるのだ。同じ薬を飲まされた婚約者が、その後自殺したことを。
 しきりに自身を責めながらロキシウスが話した内容は、こうだった。
 婚約者が薬を飲まされた翌日、ロキシウスに犯人からの手紙が届いた。そしてそこには、毒殺ではなくわざわざ記憶を消す薬を飲ませた理由は、ロキシウスを長く苦しめるためだと書かれていた。
 毒殺で死んでしまったなら、そのときは深く後悔するだろうが時間とともに傷が癒える。けれど相手が生きていたなら、婚約は継続されロキシウスの後悔も続く。それも、傷痕の最も近くで。
 そんな明らかにロキシウスを(あお)るための文面に、彼は犯人逮捕に(やつ)()になる。しかしなかなか尻尾を出さない犯人に、焦燥感に駆られる日々を過ごすことになる。
 結局、彼のその姿に耐えきれなくなった婚約者が自殺を図り、そしてそれが「狙い通り」だったという手紙がロキシウスに届く。
 ヒロインと出会った頃のロキシウスは、復讐に囚われていた。そんな彼に寄り添うヒロインに、彼は徐々に心を開いて行く。
 そして恋仲となったヒロインを今度は助けられたことで、彼は少しずつ前を向いて生きて行けるようになる。そして「三年後――」という一文から始まるエピローグは、(くつ)(たく)なく笑うロキシウスに笑顔を返すヒロインという構図の挿絵で締め括られていた。

(あれ? 夢だと思ってたけど、これってもしや異世界転生という奴では……?)

 実は先程から妙にリアルな夢だなとは思っていた。
 ロキシウスに握られ続けている両手に対し、「手汗を()いてないかな」と心配になってきた辺りから。
 それに記憶になくともこの部屋もベッドも、やけにしっくり来ている。多分、私の部屋なんじゃないだろうか。そんな気がする。
 ここで目覚める前は、確か会社帰りの終電で朝からの頭痛に悩まされていた。……あ、察し。
 私は(しば)し元の世界に思いを()せ――それからすぐに今の世界に意識を戻した。

(これが異世界転生で私がロキシウス様の元婚約者なら、自殺なんてしないわ!)

 自殺しようものなら、ロキシウスを余計に苦しめるだけだ。だからこそ犯人は彼の婚約者――マローネが死んだとき、「狙い通り」と(あざ)(わら)う手紙を彼に送り付けた。

(ふふん。ガルシア・バシッド、あなたの思惑通りにはさせないわよ)

 私は妄想の中で、憎き犯人の横っ面にグーで一発入れてやった。
 今は妄想だけど、きっと現実でもそうしてやるんだから!
 そう私は意気込んで――
 次の瞬間、とんでもないことに気づいてしまい、打ち震えた。

(待って。私……犯人も犯行動機も知ってる⁉)

 推理ものであれ恋愛ものであれ、物語である以上、犯人役が自分の犯行についてベラベラ話すのはお約束。ロキシウスが登場するこの作品でも、そこのところはしっかりセオリー通りになっていましたとも!

「マローネ……君を巻き込んでしまって、本当にすまない」

 私が不安で震えていると勘違いしたらしいロキシウスが、思い詰めたような表情で言ってくる。
 そんな彼に私は、大丈夫だからという気持ちで微笑んでみせた。

「いいえ、ロキシウス様。これはきっと、(てん)(はい)(ざい)というものです」
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