転生したら出オチで事件を解決した話
「しかし、第二王子派が無関係だとは。父上はその線で捜査を始められたというのに」

 (じゆう)(めん)を作って言ったロキシウスに、私も同じ気持ちで頷いた。
 『第二王子派』。この事件を複雑なものにしてしまったのが、それだ。私を事件に巻き込んだはずのロキシウスが見舞いを許された理由も、おそらくこれが関係している。
 ここサンデラ王国では次期国王について、王太子派と第二王子派が争っている。そしてカイデン侯爵家と我が家レッツェ伯爵家は王太子派。両家を繋ぐ私が標的となるのはおかしなことではなく、その視点から見ればロキシウスも被害者側というわけだ。
 マローネの事件が起こる前にも両家は度々人的及び物的被害に遭っており、何れも第二王子派によるものだった。カイデン侯爵が真っ先にそちらを疑うのも仕方がない。
 だからこそ、小説ではマローネの事件について、なかなか真相に辿り着けなかった。
 国を騒がせる政争とは、まったくの無関係だったガルシア・バシッド。ではその彼が事件を起こした動機はというと――何とも自分勝手なものだった。
 ガルシアはバシッド商会の商会長。急成長した比較的新しい商会で、彼はそのお金で男爵位を買った新興貴族だった。古くから続くカイデン侯爵家が彼を容疑者候補に挙げなかったのは、当然といえる。何せ接点がなさ過ぎる。
 作中でガルシアが語った犯行動機は、「カイデン侯爵家に共同事業の話を持ちかけたが断られた」というもの。しかし、真相が明らかになった後も、カイデン侯爵には心当たりがなく。それもそのはず、ガルシアが言う「共同事業の話を持ちかけた」というのは、夜会で交わした挨拶後の二言三言を指していた。
 侯爵にすれば面識のない下位貴族に事業の話をされても、単に男爵の自己アピールに映るだろう。誰も気に留めないような()(さい)な出来事で、事件が解決に至ったのはロキシウスの執念が起こした奇跡といえる。

「マローネの話を聞く限り、君に使われた薬そのものが見つからなくとも別件で捕らえることができると思う。一年後にそれだけの悪事が()(けん)するというなら、おそらく今叩いても大量に(ほこり)が出てくるはずだ」

 言いながらロキシウスが、すっと椅子から立ち上がる。

「マローネ、また会いに来る。そのときは良い報告を持ってくるよ」
「はい。お待ちしています」

 穏やかな微笑みで辞去したロキシウスを、私も「これで推しの闇落ちを防げたはず」とにこやかに見送った。
 そんな彼が部屋を出た直後に、「ガルシア・バシッド……生き地獄を見せてやる」と極悪人も真っ青な悪い顔をしていたことなど、私は知る(よし)もない。
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