転生したら出オチで事件を解決した話
 一週間後。
 ともに王都のカフェに来たロキシウスは、約束通り良い報告を持ってきてくれた。ガルシアは詐欺の容疑で身柄を拘束されたという。

「ひとまず身動きが取れないようにしておいた。下手をすれば国際問題に発展しかねない相手に詐欺を働いていたのだから、国もそう簡単には解放しないはずだ」

 その間に本来の目的である薬について調べると、ロキシウスは続けた。また、調査途中の現時点でも確かな手応えを感じているという話も、彼はしてくれた。
 小説でもガルシアの余罪に、今回の連行理由である詐欺罪があった。もし小説とは全然違う展開でガルシアがシロだったらどうしようと、実はハラハラしていた。でもこうして小説通りの罪を彼が犯しているというなら、他の余罪も薬の件についてもそのうち明らかになりそうだ。

「それにしても、君が教えてくれた情報屋ギルドは優秀だな。父上も気に入ったようで、他の仕事も色々と任せているらしい。件の政争にいよいよ終止符が打てそうだと、最近はずっと上機嫌なご様子だ」

 第二王子派の問題まで解決しそうだなんて、嬉しい副次的効果だ。父親の話をする彼自身も上機嫌な様子に、私も自然と口角が上がった。

「お役に立ててよかったです」

 推しへ貢献できたことに素直にそう返せば、何故かロキシウスは複雑な表情に変わった。
 話し込んで少しぬるくなった紅茶を、彼が一口飲む。

「俺は……俺の家は、君の知識で本当に助かった。でも君や君のご家族は……」

 ロキシウスが静かに手にしたカップをソーサーに戻す。
 その彼の所作を見ながら、私は新しく始まった異世界ライフを振り返った。
 まず、マローネの両親はとても素敵なご夫婦だった。記憶が無くなり別人となってしまった私を、優しく迎え入れてくれた。
 何がすごいって、記憶を元に戻す方法を探すのではなく、「また今日から思い出を作って行きましょう」というスタンスで私に接してくれたのだ。
 それがその場限りの慰めではなく、心からのものだと今日の出来事で実感した。第二王子派が事件と無関係ということを知っても、今朝レッツェ家まで迎えに来たロキシウスに対する両親の態度は歓迎するものだったのだ。私が彼に会うのを楽しみにしていたから。
 両親は『記憶を失ったマローネ』というより『私』を受け入れてくれている。そのことに感激のあまり泣きかけた。きっと記憶を無くす前のマローネも、ご両親のことが大好きだったと思う。
 そしてそれは、ロキシウスに対しても同じだといえる。
 小説の設定にも二人は恋人同士だったとあったがその通りで、以前のマローネも絶対に彼が大好きだった。記憶は無くても、これについては確信めいたものがある。
 だからこそ思うのだ、この世界で目覚めてから……今このときもずっとロキシウスが心を砕いているのは、あくまで『マローネ』なのではないかと。

「……『私』は、これでよかったと思っています」

 答に困り、私は彼に曖昧な笑みを返した。

「私に『マローネ』の気持ちまでは、わかりませんが」

 ロキシウスが本当に知りたいのはこちらだろう。そう思いながら、補足する。
 しかし、望む答を得られなかったはずの彼は、どうしてか心底ホッとしたような顔をした。

「俺が聞きたかったのは、目の前の君がどう思っているかだけだ。だから、以前のマローネがどうかはわからなくても構わないよ」
「えっ」

 ロキシウスから予想外過ぎる返事が来て、思わず目を(しばたた)く。
 私の推察とはまるで正反対のことを言った彼は、「妙な顔をしているね」と笑った。
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