【女の事件】恨鰻(うなぎ)
第7話
(カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン、カーン…)

またところ変わって、有希子《ゆきこ》の実家の大広間にて…

柱についているカシオの電波時計から夜8時を知らせるかねが鳴った。

悠太《ゆうた》は、強烈ないびきをかきながら寝ていた。

女々しい表情を浮かべている正行《まさゆき》は『うな重が食べたいよぅ〜』と言うて泣いていた。

この時、ともえと有希子《ゆきこ》と真代《まよ》たちはガマンの限度を大きく超えたようだ。

悠馬《ゆうま》の友人たち4人が家から出ることができずに困っているので、早く帰りたいと思っている有希子《ゆきこ》たち…

正行《まさゆき》は菊間のうなぎ屋の特上のうな重が食べたいと言うてるので帰ることができない…

ともえは、ひとりでオロオロしながらつぶやいた。

おそいわね…

舘野《たての》くんはいつになったら帰ってくるのか…

こんなことになるのだったら…

お茶漬けを用意したほうがよかったみたい…

(グォーン!!)

またところ変わって、朝倉の山奥にて…

卓《すぐる》が運転しているデミオとひき逃げ事故を起したあと逃走していた特大ダンプがせまい県道でカーチェイスを繰り広げた。

2台の自動車は、浅地口のバス停付近を通ったあと猛スピードで坂を下った。

その後、周越農道《のうどう》〜国道196号線バイパス〜産業道路へ続く市道《みち》を経由して港大橋へ向かった。

し烈なカーチェイスは、夜9時半頃までつづいた。

(グォーン!!グォーン!!)

「わああああああ!!」

デミオを運転している卓《すぐる》は、天保山町にある岩壁まで走らせた。

より激しい叫び声をあげている卓《すぐる》は、善悪を判断する能力を喪《なく》したようだ。

後ろから特大ダンプが追いかけてきた。

その末に…

(キキキキキキキキキキキキキキキ!!…ブロロロロロロ…ドボーン!!ズブズブズブズブズブズブズブズブ!!)

ひき逃げ事故を起した特大ダンプが海に転落した。

白のデミオは、ガス欠を起したあと停まった。

ふらついた足取りで車から降りた卓《すぐる》は、うつろな表情で歩き出した。

この時、正行《まさゆき》から頼まれたうな重を車の中に置いてしまった。

それから2分後であった。

(キーッ!!ドスン!!)

卓《すぐる》は、付近を走っていた黒のRX7にはねられた。

黒のRX7は、現場から走って逃走した。

卓《すぐる》は、その場で死亡した。

(カーン…)

またところ変わって、有希子《ゆきこ》の実家の大広間にて…

柱についているカシオの電波時計から夜10時半を知らせるかねが鳴った。

この時、ともえがオロオロしながらのたうち回った。

たいへんだ…

舘野《たての》くんの親御さんに電話しなきゃ…

そう思っていた時であった。

真代《まよ》がともえに声をかけた。

「奥さま…」
「はい?」
「すみませんけれど、代行運転を呼んでいただけますか?」
「ダイコウウンテン?」
「酔っ払った運転手さんに代わって業者さんが運転するサービスを言うのですよ~」
「知ってるわよ〜」
「だったら呼んでください!!」
「どこにあるのかわからないのです…あの…舘野《たての》くんがもうすぐうな重を持ってうちへ来るのです…」

有希子《ゆきこ》は、怒った声でともえに言うた。

「おかーさん!!いいかげんにしてよ!!」
「有希子《ゆきこ》〜」
「おとーさんのせいでうちらにメーワクが及んだことが分からないのね!!」
「おとーさんは(菊間の)うなぎ屋のうな重が食べたいと言うてるのよ〜」
「もう無理よ!!それよりもうちは悠馬《ゆうま》のお友だちたち4人に留守番を頼んだのよ!!」
「おかーさんが後日オヤゴさんたちにあやまるから…」

(ジリリリン!!ジリリリン!!)

この時であった。

黒のダイヤル式の電話機のベルがけたたましく鳴り響いた。

ともえは、受話器を手にしたあと話をした。

「有働《うどう》でございます…どちらさまでしょうか?…ああ、悠馬《ゆうま》のお友だちのおとーさまですね…」

ともえは、悠馬《ゆうま》の友人たち4人のオヤゴさんにあやまろうとした。

この時、受話器のスピーカーから『バカヤロー!!クソババア!!息子を返せ!!』と言う怒号が響いた。

ともえは、泣きそうな声で『もうしわけございませんでした!!』と言うた。

これに対して受話器のスピーカーから『許さない!!ぶっ殺してやる!!オドレのボケムコを呼べ!!』と言う怒号が響いた。

一体なにが起こったのよ…

大パニックを起したともえは、タイショできなくなった。

このあと、受話器のスピーカーから別の男性の声が聞こえた。

別の男性は、今治警察署の警官だった。

ともえは、涙をポロポロこぼしながら『一体なにが起こったのか?』とたずねた。

ところ変わって、今治市旭町《しないあさひまち》にある交番にて…

交番の警察官は、困った声で言うた。

「もしもし、徳久悠馬《ゆうま》くんの親御さんと代わっていただけますか?…さきほど10時前に枝堀町《えだぼりちょう》の住宅で銃の発砲事件が発生しました…事件現場はおたくの家ですよ…家の中にいたお友だちたち4人が男が持っていた自動小銃《マシンガン》に撃たれて亡くなりました…あの…自動小銃《ジュウ》を発砲した男は悠馬《ゆうま》くんのおかーさまにふられたことにうらみがあったと聞きましたよ…もしもし…娘さんと代わってください!!」

ともえは、泣きながら受話器ごしにいる警官に言うた。

「今むすめは、大パニックを起したのでお話をすることができないのです…また後日にしてください!!」

受話器ごしにいる警官は、ものすごくあつかましい表情でともえに言うた。

「もしもし、たった今ですが娘さんとオムコさんを児童福祉法にテイショクする容疑で逮捕状を発行しました。」
「逮捕状を発行したって!!」

近くにいた正行《まさゆき》がおたついた声で言うた。

「なんだって!!有希子《ゆきこ》に逮捕状を発行したって!!」
「あなたどうしましょう〜」

この時、正行《まさゆき》はいびきをかきながらグーグーと寝ている悠太《ゆうた》を起こそうとした。

「悠太《ゆうた》くん!!起きろ!!大変なことが起こったぞ!!」

しかし、悠太《ゆうた》はグーグーと寝ていた。

ことの次第を聞いた有希子《ゆきこ》は、大急ぎでとなりの部屋にいる3人の子どもたちを呼びに行こうとした。

このあと、より深刻な事件が家庭内で発生した。
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