騙されて全てを奪われかけたけれど、思いのほか過保護な弁護士と敏腕CEO の力で解決 しそうです? ~強面CEO は甘い物と可愛いものがお好き~

「彩葉っ……!」

 リュカさんは私を優しく抱き起こすと、ぎゅうぎゅうに抱きしめる。「無事で良かった」と囁いた声に、感情が麻痺していたのが解けて涙が止まらなかった。
 こんな危険な場所にまで来てくれたことの嬉しさと、巻き込んでしまったことへの申し訳なさで胸がいっぱいになる。

「リュカさん……どうやって……」
「おや神堂から聞いてなかったのかい? ネックレスと耳飾りはGPSが付いていて、いざという時に備えていた物らしい」
「あ」

 神堂先生が確認していたのって……そいうこと!? だから「備えあれば憂いなし」って言ったのね!

「そんな訳で警察に無理を言って、同行させて貰ったのさ。こういう時、弁護士の口利きというのは便利だね」

 リュカさんの言葉通り、三人はアタッシュケースの中身を確認しようとした段階で取り押さえられ、手錠をかけられていた。

「な、なんで警察がここに!?」
「お、俺はこいつらに落とされて……。本当はコイツらの隙を見て、婚約者の彩葉を助けるつもりだったんだ!」
「ちょっ、冗談じゃない! 私は彩葉の友人で、私が彩葉を助けるためにコイツらの言うことを聞いていたんだから!」
「……と言っていますが、秋月さん……本当ですか」
「いいえ。大雅は私の財産目当てで近づいた詐欺犯で、麗奈は美人局で私から慰謝料をもらうため近づいたんです」

 大雅と麗奈は「違う」と喚いていたが、粛々と警察が連行していくのが見えた。
 従業員の二人はすぐにやってきた救急車に搬送されたが、気絶しただけで外傷はないとのことだった。鈴本さんや中村さんに迷惑をかけてしまったと落ち込んでいたが、後日、二人とも大雅の甘い誘いに乗って、私の家の鍵や店の中など出入りさせていたことが分かった。
 自分の見る目のなさに更に凹んだ。

 それから大雅たちは刑事と民事両方で訴えられ、実刑がつくとのことだった。私がそれを聞かされたのは、大分後になってからだけれど。
 あの後、リュカさんの過保護というか束縛(?)が増して、暫くはホテルの中から出られない状態だった。

「メイに彩葉のことを頼まれていたのに……」と泣きそうな顔をしているリュカさんに、流されなかった私を褒めて欲しい。「メイさんが望んだから」という言葉は、嬉しいはずなのにズキズキと胸が痛むのは──リュカさんのことを意識してしまっているからだ。この過保護ぶりも、その一環だと自分の気持ちに蓋をしたまま、月日は流れた。


 ***


 バタバタと一ヵ月があっという間に過ぎ、少し落ち着いたのと気分転換を兼ねて、リュカさんが「観光地巡りをしたい」と言い出した。
 思えばメイさんのために日本に来ていたのに、事件に巻き込んでしまったと申し訳ない気持ちがずっとあった。だからこそ少しでも良い思い出になるようにと、ガイドブックを買い込んで付箋などを付けて準備万端。
 天気予報も晴れ。
 完璧だと思っていたのだが、落とし穴は予想外の所からやって来たりする。
 いつものホテルのサロンで待ち合わせしていたのだが、リュカさんの様子がおかしい。顔が赤くて、気だるそうな──まさに風邪の症状を彷彿とさせる。

「彩葉。今日はとっても楽しみにしていたんだ。どこに連れて行ってくれるんだい?」
「ええっと……病院? 体温計で熱を測ってみましょうか」
「わ、私は健康そのものだよ!!」
「そんなわけないでしょう!」

 すぐにホテルのフロントに連絡を入れて、体温計を借りられないか聞いたところ、従業員の人が持ってきてくれた。

「リュカさん。熱を測るだけですから」
「では測っている間、彩葉の手を握っていても?」

 なぜに!?
 そう思ったけれど、子犬のような目を向けてくるので手を繋ぐことに。これもメイさんがいなくなった寂しさを埋めるための行為なのかな?
 だとしたら……ううん。体調を崩した時って不安になるものだわ。それは子供でも大人でも変わらない。
 ピピッ、電子音が鳴って体温計を取り出すのを待っていたのだが、リュカさんはちらっと確認してからまったく動かない。

「リュカさん?」
「熱はない。だから予定通りデートに」
「何度だったんです?」
「……ヘイネツダヨ」
「どうしてカタコトなのでしょう。いいから見せて下さい」

 体温計を取り上げようとしたところ、リュカさんに抱きつく形になってしまった。そのままリュカさんは私をぎゅっと抱きしめる。体が熱い。
 やっぱり熱があるのね。案の定38.5°発熱していた。全然平熱じゃない!

「彩葉とのデートを、とてもとても楽しみにしていたんだ」
「デートはいつでもできますよ?」
「本当に?」
「今日をしっかり休んだから、予定を立てましょう」
「一度だけじゃなくて、何度も行きたいと言ったら?」
「リュカさんがこの国で、よい思い出を作れるように、同行しますよ」

 それを聞いて安心したのか、リュカさんは部屋で休むと言ってくれた。
 眠るまで傍にいて欲しいというリクエストに何度も断ったが、悲しそうな顔をするリュカさんに絆されてしまい、ベッドの傍で看病をすることを了承してしまった。

 ああ、もう大雅の件で隙を見せたり、世話を焼かないって決めたのに!
 リュカさんは違うと思いたいし、今回の一件ではとてもお世話になった。でもそれは好意からというよりも、メイさんの好きだった日本という国、そしてメイさんのしたかったことを、リュカさんがしているだけなのだ。
 私への好意も、私を見ていながら誰かを見ている気がする。
 だからこそ勘違いしてはいけないし、深入りしてはダメだと自分に何度も言い聞かせた。
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