騙されて全てを奪われかけたけれど、思いのほか過保護な弁護士と敏腕CEO の力で解決 しそうです? ~強面CEO は甘い物と可愛いものがお好き~

2.古参のフォロワーさん?

 買い物を終えて、自分の店にも立ち寄る。自分の作品以外にも、他者の作家さんにレンタル(貸し出し)ボックス(スペース)を設けている。三カ月更新で様々なテーマに合わせた作品を期間限定でおいているので結構好評だったりする。やっぱり期間限定、当店限定ってのは効果抜群だわ。
 様々なハンドメイド作品が置いてあるので、品揃えも豊富だ。従業員も二人雇っていて、麗奈よりもかなり有能だったりする。

 今まではこれで良かったけれど、結婚したらいろいろ変わるのかしら?
 大雅は自分が自営業だからと、私の仕事にまで口出しして……きそうね。何より麗奈との付き合いが切れないのは……ストレスになりそうだわ。

 大雅のことは嫌いじゃないけれど、取り巻く環境と友人知人に好印象を持てないし、家族への紹介もないのが、どうしても引っかかる。
 私が神経質なのかな?
 ううん、でも私の場合は「気をつけるように」って、お父さんとお母さんにも言われたし……遺言書にも結婚は弁護士立ち会いの元、ご両親との会食が項目に入っているのよね。離婚や鬼籍に入っていたとしても、お墓参りは必須だし……。それだけ私に人を見る目がないってことなのよね。
 うう……。お父さん、お母さん……。
 ちょっと凹みそうです。でも私に人の見る目がないというよりも、単に巻き込まれ気質なような?

 そんなモヤモヤした気持ちを抱えつつ店に入ると、私の作品が置いてある戸棚の羊毛フェルト作品をジッと見ている青年が佇んでいた。

「あ、オーナー! このお客様がオーダーメイドをご希望でして……」
「鈴本さん、ありがとう」

 ふと顔を上げた青年は、金髪の肩まである髪が微かに揺れた。前髪で顔の半分は隠れてしまっている。猫背だけど、私よりもずっと背が高いわ。
 サイズに合っていないダボったい深緑のカーディガンの下は、白いシャツに黒のズボンと、かなりラフな格好だけど、学生さんかしら?

Je l'ai(やっと)enfin(、見つ) trouvé(けた……)

 心地よい声に思わずドキリとしてしまった。今のって英語? ちょっと違うような?

「ええっと……」
「ああ、すまない。最近まで海外にいたので……。貴方がイロハ・アキヅキセンセーですね。私はリュカ・ベルトラン。SNSのアカウント名はメイといえば分かるだろうか?」
「メイさん? 三毛猫のぬいぐるみのアイコンの?」
「はい」

 そう言って携帯端末を差し出すと、メイさんのアカウントでログインしている。でもDMやコメントなどだと几帳面で、私よりも年配の女性なイメージだったのだけれど……。
 それにファンレターをくれた時も、女性の名前だったような? 私の違和感に気付いたのか、青年は口元を少し緩めて、微笑もうとして失敗していた。無理矢理笑おうとして、できなかったのだろう。なんとなく両親を亡くした頃の自分を思い出した。

「ああ、その私は……メイの代理人のような者だ」
「え」
「本人は会うのを楽しみにしていたのだけれど、去年の冬ごろから体調が悪化してしまい、そのまま帰らぬ人に……」
「そうでしたか……、残念でなりません。お葬式は……もう?」
「ええ」

 青年は小さく頷いた。前髪が長くてどんな表情なのか読みづらいものの、声は柔らかい。

「春までバタバタしていて、それでようやく……日本に足を運ぶことができたということです。メイはセンセーに新作のオーダーをしていたとか」
「ええ、そうです」
「突然の来訪で申し訳ないのですが、商品の受取と代金の支払いをしたいと……」
「あ……」

 私とメイさん最後にやりとりをしたのは、去年の十一月頃。その当たりのメールまで読んでいない?
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