騙されて全てを奪われかけたけれど、思いのほか過保護な弁護士と敏腕CEO の力で解決 しそうです? ~強面CEO は甘い物と可愛いものがお好き~
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慌てて戸締まりをして家を出ようとしたところで、麗奈とばったり遭遇する。カフェでの一件を言いに来たのかと身構えつつ、家の鍵を鞄にしまう風を装って携帯のボイス録音をオンにした。
「もう、彩葉! 今日は散々だったんだけれど!」
「お財布を忘れたことなら、自業自得でしょう? それに私が立て替えたお金はいつ返してくれるの?」
「なによ。そのことで謝ったのなら、減額してあげようと思ったのに!」
「減額?」
麗奈が途端に、何を言っているのか分からなかった。今までも自分勝手な振る舞いが多かったが、今日は何のことやらサッパリ分からない。
「私、大雅の奥さんなのよ。その大雅と二年以上も不倫をしていたんだから、慰・謝・料を払って貰わないと困るわ」
「え、は?」
今日は本当に、寝耳に水なことばかり。
情報量の多さに、現実逃避しそうになったが何とか会話で情報を引き出さなければ──と、持ち直す。
「ええっと、その言い回しだと麗奈は、二年以上前から大雅と結婚していた?」
「そうよ」
「でも私に大雅のいる店を紹介した時も、私が彼と付き合うときも麗奈は知っていたわよね?」
「ええ。本当は彼と付き合った段階で、慰謝料を貰う手はずだったけれど、遺産や土地も欲しくなったから泳がせておいたのよ」
ええっと、話をまとめると麗奈と大雅は美人局をしていた──ってこと?
それで私をターゲットにしたものの、計画の途中で両親が亡くなったことを知って、さらに私から何もかも奪おうとしていた?
要約すると、もの凄く頭の痛い結論が出た。
「でも、大雅がそれをやめたって言うから、私も貰う物は貰おうって決めたの。相場として三百ぐらいから考えているの。貴方、お店もやっているでしょう。下手に噂とか出たらやっていけないんじゃない?」
「何を……?」
「最近のSNSって使い方次第で、すぐに炎上するのよ」
「──っ」
「ね、大事にしないでお金さえ払ってくれたら、消えてあげるから」
「彩葉センセー、ああ、よかった」
「え」
「誰……このイケメン」
ピシッとしたスーツに身を包んだ金髪の青年が佇んでいた。黒の質の良さそうなスーツに、前髪はオールバックにしていて、鋭くも美しい青い瞳が際立つ。目鼻立ちも整っていて彫刻のように美しい。もっとも今は少しだけ頬が赤くて、よく見ると少し息が上がっている。ここまで走ってきたのだろうか。
とにもかくにも、俳優かモデルのようなイケメンである事には間違いない。
ううん、それよりもこの人は……今日話したリュカさんに声とか目の色とかそっくりなんだけど! もしかして本人?
「神堂の電話に出なかったので、不安になって迎えに来ました」
「あ、神堂先生の……助手の方?」
「まあ、そんなところです」
「彩葉、誰よこのイケメン……! こんな素敵な人がいたなら、私にも紹介してよぉ」
先ほどの態度から一変して、麗奈は青年に擦り寄ってくる。なんとも変わり身の早い行動にドン引きしつつも、話を切り上げようと試みる。
「……とにかく仕事の用事があるので、麗奈の話はまた今度にしてちょうだい」
「ふぅん。まあ、いいわ。ところで、貴方。お名前は?」
青年はにっこりと麗奈に微笑み「また後日」とだけ答えた。
普通なら名乗っていないことに気付くのだが、あまりにもその笑顔に麗奈は頬を赤らめて引き下がった。イケメンってスゴイのね、と改めて実感した瞬間だった。
それからアッサリと解放された私は、神堂先生の助手と共にタクシーに乗り込んで事務所へと向かった。
室内の沈黙が、どうにも居心地が悪い。
「あの……さきほどは、ありがとうございました」
「いや。少しはセンセーの役に立ったのなら、良かった」
「えっと……それで、気になったのだけれど、もしかして……リュカさん?」
「うん、そうだよ。って言ったら……君も私を怖がる?」
「え? どうして怖がるんです? こんなに格好よくなって」
「え」
ボッ、と頬を赤らめるリュカさんに怖いとは感じない。むしろ可愛いさが強まった。スーツ姿だとピシッとしていて雰囲気が全く違う、大人の色香が増したような気がする。
「仕事をしていると、怖がられるから嬉しいな」
「弁護士の助手だと、色んな案件があるから大変そうですもんね」
「ん、あ、まあ。魔物の巣窟だと思っている。この国で言うなら魑魅魍魎だったかな」
「そう言えば日本語が流暢ですよね」
「ああ、それは──メイから教わったんだ」
「メイさんから」
そういえばリュカさんとメイさんの関係って……親しそうだし、もしかして恋人。ううん身内だっていうなら婚約者、夫婦だったとか? メイさんの雰囲気からしておっとりしていて、気遣いもできる素敵な人だったなら、リュカさんのような素敵な人と付き合っていても不思議じゃないわ。
それに羊毛フェルトを引き取ろうとしているんだもの、親密な関係なのは間違いないはず。……って、お客様のことに関してあれこれ詮索するなんてダメね。
「彩葉センセーは聞いていた通り、とってもcuteだ」
「え!?」
さきほどまで頬を染めていた初心らしさはなくて、見目麗しく余裕の笑みを向ける眼差しは熱が籠もっていた──気がしなくもない。
いやフランス人だかイタリア人は、サラッとこんな風に口説くと言っていたような?
勘違いしないように気をつけないと!