騙されて全てを奪われかけたけれど、思いのほか過保護な弁護士と敏腕CEO の力で解決 しそうです? ~強面CEO は甘い物と可愛いものがお好き~

4.反撃は完膚なきまでに

 事務所があるのはオフィス街の一角のビルだ。二年前に比べて、モダンな雰囲気に変わっていた。

「久しいな、お嬢」
「先生……私はもう大人なのだけれど」
「私にとってはいくつになっても、お嬢だよ」

 事務所で煙草を一服して待っていたのは、弁護士──というよりも、どこかの若頭のような貫禄がある。黒スーツに、七三にきっちり分けた黒縁眼鏡など知的な雰囲気と、ただ者ではない迫力は相変わらずだ。
 神堂(しんどう)光一郎(こういちろう)。ベテラン弁護士さんである。
 両親と親しかったこともあり、両親の葬儀などのもろもろの手続きも、先生が世話を焼いてくれた。何かと気にかけてくれて、「困ったことがあったら相談に乗るから」と気さくな方だった。

「まったく、昔から面倒事に巻き込まれるから、気をつけろと言っていただろう」
「気をつけてはいたけれど……」
「二年で少しは大人になったかと思ったが……で、今度は知人にでも騙された。それとも結婚詐欺? 美人局……あるいは全部か?」
「神堂、そんな面倒事がそう簡単にあるわけ」
「全部かも」
「は?」
「ほらみろ。この嬢ちゃんは面白いぐらいに、そういう面倒事を引っ張ってくる。そんなんだから秋月夫妻はずっと心配して、色々と私に依頼を出していた。その一環で、婚姻不受理届けを出している」
「あ」
「やっぱり忘れていたか。数年前のストーカー対策の一つだったが……。お嬢、秋月夫妻から贈られたイアリングかペンダントは、肌身離さず持っているか?」
「うん、どっちか一つは必ず身につけているわ」
「ならいい。まあ、備えあれば憂いなしだな」

 神堂先生は意味深な笑みを浮かべて、紫煙を吐き出す。

「ん? ということは……婚姻届も虚偽?」
「おそらく。「結婚した」と言い含めて話を進めるつもりなんだろうな。おおかた婚姻届の書類も偽装して役所に持って行ったが、不受理届出のせいで、届けが出せなかったことで強行に出たんじゃないか? 弁護士を立てていると言えば、言われた側は心理的に穏便にしたくて、金を渡して縁切りするって思っている。お前は店もやっているし、SNSで炎上したら仕事にも響くだろう?」
「う……」

 これでも警戒心は強くなったはずなのだけれど、それでも面倒事に巻き込まれてしまうのだ。行く先々で、事件が起こるミステリーの主人公のような気分だわ。

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