Lecker
魔界には人間はいない。魔界に住む魔王や位の高い魔物たちは人間界を行き来することができるものの、人間を連れて来てはならないと決められている。人は魔族よりも弱く、魔界では人間だけで生きていけないためである。
何故そんなルールを破ってシュリュッセルが魔界の屋敷で働いているのかというと、ファーデンと共に魔界へ行くことを自ら決めたためである。
シュリュッセルは人間界では孤児だった。生まれた時から親がおらず、孤児院で十一歳まで育てられ、伯爵家に使用人として引き取られた。朝から晩まで働かされ、給料は雀の涙ほどしか貰えなかったものの、シュリュッセルはお金が貰えることに喜びを感じていた。
そんな彼が十五歳になった時のことである。伯爵に呼び出され、解雇を告げられた。理由をシュリュッセルは訊ねたものの、伯爵は答えないまま彼は屋敷を着の身着のまま追い出された。
シュリュッセルは行く宛などなく、ただ街を彷徨い歩いた。仕事を探そうとしても家も何もない彼は門前払いを食らい、物乞いをするしか生きる道がなくなってしまったのだ。