無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
ニュースと共に映し出された映像は、犯人以外ぼかし加工が施されているものの、拘束された春音の姿もはっきりと映っていた。

実際身に起こったことなので、映っているのは当たり前なのだが、何故か春音は目の前の映像を俯瞰していた。

『確か、あの男性(ひと)銃刀法違反の現行犯で逮捕するって言ってた気がするけど……』

「春音ちゃん!」

番組に気づいた透子が慌ててリモコンを手に取った。

「消さないで!消さないでください」

「春音ちゃん、大丈夫なの?」

春音が頷くと、透子は不承不承といった表情で、春音の隣に腰を下ろした。

透子と二人並んで映像を確認する。

あんな距離でアレンジメントに足が届くなんて、どれだけ足が長いのだろうか。

番組内でも元県警本部捜査員といわれる男性が、映像を観ながらアナウンサーの問いかけに答え解説していた。

《警官は躊躇わずに犯人に近づいているように思えるのですが、これは危険な行為ではないのでしょうか?》

《そうですね、一概には言えませんが、今回は、現場の警察官が可能だと判断したのでしょう》

《何故そう思われるのですか?》

《この警察官は、自身の可動域を正確に把握しています。被疑者、人質、抱えている花束、全ての距離と、蹴り上げた時に花が空中に浮いている時間を瞬時に計算して、可能な限り近づき立ち止まっています。そして、何か言葉をかけ人質の気を緩め、その一瞬の隙をつき花を蹴り上げた。そして被疑者の気が逸れたところで確保しています。興奮している被疑者は何をするかわかりません。人質も緊張のあまり花を握りしめていたはずです。警察官はまず、人質の身体から力を抜くことを考えたのでしょう》

《この短時間でそこまで計算していた、ということですか⁉︎》

《はい、彼は優れた知能と、ずば抜けた身体能力を併せ持つ優秀な警察官です》

『そんなに優秀な警察官だったんだ。ブスって言ったのは、気を逸らすためだったのかな?』

春音は男性(かれ)の言動を思い出していた。
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