無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
それでも一度流れてしまった動画はデジタルタトゥーと言われるだけあり、プライベートや仕事中、顔見知りはもちろん、見知らぬ人たちからも声をかけられた。

しかも、潤人に抱きかかえられた場面も拡散されていたため、潤人に好意を寄せる女性陣から、あからさまに嫌味を言われることもあった。

事件から数日経ったこの日も、店先の植木の手入れをしていると、通りがかった見知らぬ女性から、「お姫様抱っこされるなんて百万年早いのよ」などと吐き捨てられた。

そして、背後に気配を感じ振り返ると、春音と同年代くらいと思われる男が、

「スクープですよぉ〜」

などとニヤニヤしながらスマホを春音に向けていた。

『え! この人何してるの⁉︎ 』

春音が咄嗟に顔を背けたその時、

「肖像権侵害って知ってるか?」

「なんだよお前…… あっ!お前、この女を助けた刑事じゃねぇか……って、うっ……」

『え? この声……』

春音が恐る恐る顔を上げると、

スマホを春音に向けていた男が、湊人に睨みつけられていた。
獲物を捉えた獣のような迫力に、男は言葉を失っている。まるでこの空間だけ時が止まっているようだ。
先ほどまで調子に乗っていた男が、抵抗できない小動物のように萎縮している。

「いったい何事?」

店内にいた透子が、慌てて春音のもとへ駆け寄った。

透子の声で時が動き出したかのように、男はハッとし、その場を離れようとしたが、すぐさま湊人が立ちはだかり、

「消せ」

冷たく言い放った。

有無を言わせない圧に、男は震える手でスマホを操作した。

「ほ、ほら、消したから」

そう言って恐る恐るスマホを湊人に手渡した。
手渡された湊人は、削除されていることをしっかりと確認する。

「今度やる時は訴えられるのを覚悟でやれ。法治国家ということを忘れるな」

再度湊人が睨みつけると、男は湊人の手からスマホを奪い取り、そそくさと立ち去って行った。
< 15 / 47 >

この作品をシェア

pagetop