無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
歩幅が広いのか、湊人の後ろ姿は随分と先にあった。
見失わないよう駆け出した春音は慌ててブレーキをかけた。

走って来た小さな男の子が、湊人に勢いよくぶつかったのだ。
その反動で身体が跳ね返され、尻もちをつきそうになったところを間一髪! 湊人が抱きかかえた。
だが、自分の身に起こったことが理解できずに驚いたのか、抱きかかえられたまま男の子が泣き出してしまった。

かなり大きな声だったこともあり、周囲の視線が湊人と男の子に集中する。
事情を知らない人たちからすれば、この状況はどう見ても嫌がる子どもを湊人が無理やり抱きかかえているようにしか見えない。
すぐに母親らしき女性もやって来た。これはもう、自分の子が誘拐されそうになったと勘違いしてもおかしくない状況ではないだろうか。
現に、女性の表情は険しく、我が子を奪い返すように湊人の手から激しく引き離した。
男の子は女性にしがみつき、大泣きしている。

春音はいてもたってもいられず、気がつけば駆け出し、

「間一髪でしたねっ!」

かなり大きな声を出していた。

その場にいた人たちの視線が一斉に春音に向けられる。それでも春音は言葉を続けた。

「転ばなくて良かった! 何ですか、その瞬発力は! あのですね、彼すごかったんですよ! 私、あそこから見てたんですけど」

春音は元いた場所を指差し、力強く訴える。

「この子が彼にぶつかって、あっ、転んじゃう! って思ったら、彼が、ヒヨイッって抱えたんです! 頭打たなくて良かった。本当にあっという間の出来事だったんですよ! いやぁ、ホントびっくりしました」

『痛い、突き刺さる視線が痛い。どうしようこの状況』

春音が次の言葉を探していると、

「良かったねぇ、ボク。おばちゃんも見てたけど、転んで大怪我するところだったもんねぇ」

品の良い50代くらいの女性が春音を見て微笑んだ。

「そうだったんですね、すみません。気がついたらこの子がいなくて、慌てて探してたら泣き声が聞こえて、それで……勘違いしてしまって……すみません」

『やっぱり誘拐犯と勘違いされてたんだ』

湊人の顔を見ると、まるで他人事のように相変わらずの無表情を浮かべていた。
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