無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
「けんちゃんごめんねぇ、ママが悪かった。もう大丈夫、大丈夫」

泣き続ける男の子の背中をトントンしながら、女性は「本当にすみませんでした。ありがとうございました」と男の子を抱っこしたまま頭を下げ、恐縮そうにその場から立ち去った。

同時に向けられていた多くの視線も拡散し、湊人は何事もなかったかのように足を踏み出した。

『あれ? 私、どうしてここにいるんだっけ? ……あっ、そうだった! お礼よお礼!」

本来の目的を思い出した春音は湊人に視線を戻した。後ろ姿が遥か遠くに見える。

「だから、どんだけ足長いのっ!」

急いで後を追った。

「あ、あのっ!」

追いついた春音は、湊人の行く手を遮るよう回り込んで立ち止まり、湊人の顔を見上げた。
春音を見下ろす顔は相変わらず無表情だ。冷たささえ感じる。

『怯んじゃダメよ、私!』

春音は湊人の目をしっかりと見据えた。

「あ、ありがとうございました。この前も、今日も、助けていただいて。本当にありがとうございました」

春音は深く頭を下げた。

「別に、仕事しただけだ」

「それでも、助けてくださったことに変わりありません」

春音はもう一度深く一礼してから踵を返し、店に向かって足を踏み出した。

『よし、言えた。よかった。……でも、なんかモヤモヤするな……』

春音はおもむろに立ち止まり、振り返った。
既に湊人の姿はない。

『歩くの速いよ』

心の中でつぶやいた瞬間、胸の中がギュッと締め付けられるような感覚を覚えた。
思いもよらない感覚に春音は動揺した。
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