無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
一方湊人は、歩きながらついさっき自身に起こったことを思い出していた。

あれは紛れもなく誘拐犯だと思われていた。だが、想定の範囲内だ。あの通りには所々に防犯カメラがセットされているし、映像を確認すればそうでないことは証明できる。本当に誘拐されたらどうするつもりなのかと、子どもから目を離す親に憤りさえ感じていた。
しかし、まさかあんなことになろうとは思ってもみなかった。

春音のわざとらしさ全開の言動が脳裏に浮かぶ。

『必死に庇おうとしてくれていたよな、こんな俺を……』

思わず顔が綻んだ。
だが、すぐ真顔に戻る。

被疑者を確保した後、春音の調書を確認すると、両膝を負傷と記載されていた。
極力怪我をさせないよう注意は払っていたつもりだったが、結局怪我を負わせてしまった。しかも緊急事態だったとはいえ、「ブス、邪魔だ」などと発言してしまった。

これまでも、冷酷だと言われるような行動をとってきた自覚はある。もちろん、デリカシーのかけらもない言葉を投げかけたことも幾度とある。それで被疑者確保につながるのなら、最低な人間だと罵られようが痛くも痒くもなかった。

だから、今回もそうだと思っていた。

しかし……

胸がチクリと痛む。
" 反省 " という文字が頭に浮かんだ。こんなことは初めてだった。そうして、春音に謝るために湊人はアートガーデンを訪れたのだった。

それなのに、妙な男が現れだことで全てが狂ってしまった。
男の行動が目に入った瞬間、いてもたってもいられなかった。追い払うことはできたが、肝心なことがすっかり頭から抜けていた。

『何やってんだよ俺、何しに来たんだよ俺』

湊人は項垂れた。

項垂れると同時に、今度は被疑者を確保した直後のことを思い出した。
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