無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
高層ビルが立ち並ぶオフィス街、けやき通り沿いにあるビルの一階には、空間デザインを手がけるフラワーショップ【アートガーデン】が店を構えている。

「これで大丈夫でしょうか? 喜んでもらえるでしょうか?」

アートガーデンの代表であり、店長を勤める広瀬透子(ひろせとおこ)に、春音は不安げな面持ちで問いかけた。

「うんうん、なかなか素敵に仕上がったじゃない! 明るさと優しさが表現された素晴らしいアレンジだわ。大丈夫よ、自信持って。ほら、笑顔笑顔」

「よかった……」

春音はホッと胸を撫で下ろした。

「じゃあ私、配達行って来ます」

「お願いね、気をつけていってらっしゃい」

新緑が芽吹く金曜14時。
店員の森川春音(もりかわはるね)は、少々大きめのフラワーアレンジを抱え店を出た。

その小柄な後ろ姿を、透子は優しい眼差しで見送った。

配達先は店から数十メートル先にある高級ホテルだ。今朝コンシェルジュから依頼された。
宿泊客の男性から妻へのサプライズだという。
男性は長年勤めた会社を定年退職し、これまで支えてくれた妻を労うために宿泊予約をしたとのこと。
太陽のような女性なので、オレンジ色をベースに大きめのアレンジにして欲しいとの要望だった。

ホテルは、大手総合商社【鷹屋商事】のグループ会社【タカヤホテル】だ。

サプライズは15時のチェックインに合わせ計画されており、14時30分にコンシェルジュデスクまで届けるようになっている。新鮮さを保つめ、できるだけギリギリの時間に仕上げての配達だ。

『素敵なサプライズになるといいな』

春音は欅の木漏れ日を浴びながら、足早にホテルへ向かった。
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