無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
まさか潤人があんな行動を取るとは……

被疑者に拘束されていた春音のことが気になり視線をやると、座り込んでいる春音を躊躇なく抱きかかえる男の姿が目に入った。その男が潤人だとわかった時の衝撃は忘れることができない。
潤人が春音を抱きかかえ、ホテルに入っていく姿ははっきりと目に焼きついている。そして、同時に湧き上がった得体の知れない感情に湊人は困惑していた。

『いったい俺はどうしてしまったんだ?』

一年前、県警本部に移動してすぐの頃、潤人にホテル横のカフェに呼び出され、大切な女性だと透子を紹介された。
大学時代から交際していることは知っていたが、正式に紹介されたのは初めてだった。

これまで湊人は、恋愛感情など一切持ったことがない。だが、告白されれば付き合ったし、セックスもした。それは自分の性欲を発散させるためで、相手の気持ちなどどうでもよかった。結局感情を求められ、応えられない湊人から皆離れていった。
対して潤人は、湊人とは違い、いい加減なことが許せない性格だ。透子のことを大切に想っていることは、潤人の言動からもよくわかった。

潤人は昔から、告白されるとことに疲弊するほどモテていた。その度に断り続け、結局交際に至ったのは二人だったと記憶している。しかも、そう長くは続かなかったはずだ。

"女性は厄介で面倒臭い" それが根底にあるからだ。
それは湊人を産んだ母親のせいでもあるのだが……

そんな潤人が自ら求め、猛アプローチした相手が透子だ。
透子しか目に入っていない。そして何より、透子以外の女性に触れられることを極端に嫌う。
そんな潤人が自ら抱きかかえるなど、何かあるに違いない。そう思ってしまうのは必然なことではないだろうか。

『彼女に触れるのは平気なのかよ』

そんな事を考えていた湊人は、得体の知れない感情が次第に不快な気持ちへと変わっていくのを感じていた。
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