無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
事件のあった夜、仕事を終えた湊人がスマホ画面を確認すると、潤人からの着信履歴が残っていた。

春音を抱きかかえた姿が脳裏に浮かぶ。怪訝な気持ちのまま通話ボタンをタップした。

「湊人、仕事は終わったのか?」

「終わったよ、何?」

「礼を言いたくてな」

「礼?」

「お前だろう? 今日彼女を助けたの」

「彼女?」

「森川春音さんだよ」

「まぁ、仕事だからね。なぁ、彼女、兄貴の何?」

「は?」

「女性に触れるのも触れられるのも嫌いなくせに、抱きかかえてたよな」

「手錠かけながらよく見てたな」

「話はぐらかすなよ」

「彼女は大切な女性だ」

「は? 透子さんがいるだろうよ」

少々強めの口調になってしまった。

「違う違う、お前が思っているような感情じゃない。妹だ」

「妹?」

「透子にとって彼女は妹のような存在だ。可愛くて仕方がないらしい。俺も嫉妬してしまうほどな。そんな彼女が怪我をしていた。緊張の糸が切れて膝から崩れ落ちたのか、両膝をアスファルトに強く打ちつけてしまったんだろう。血が滲んでいた。だから咄嗟に抱きかかえた」

負傷したことは調書で確認していたが、そういうことだったのかと、その場面を想像した。

「医者に診てもらったが、生活に支障はないそうだ。今日は透子のマンションに泊まっているよ。透子のことだ。しばらく泊めるつもりでいるのだろう」

「そう、なんだ……」

「なぁ、湊人」

「何?」

「いいや、何でもない」

「何だよ、気持ち悪いな」

「いいや、とにかく、彼女を助けてくれてありがとう。じゃあな、お疲れ」

そう言うと、潤人はさっさと通話を終えてしまった。

『何なんだよいったい!』

湊人の脳裏に強張った表情の春音が浮かんだ。
その表情に胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
この時の湊人には、この感情が何なのか、全く見当もつかなかった。

そして潤人は、いつも抑揚のない口調の湊人が、珍しく感情を露わにしていたことに驚きを隠せなかった。
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