無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
「今朝までお世話になっていました。気持ちも落ち着いたし、そろそろ自宅に戻ろうかなと思いまして」

「落ち着いた?」

「はい」

「俺には、そんな風には見えないが」

「え?」

「無理してんだろ?」

「そんなことないですよ。えっと……鷹屋さんはお仕事終わったんですか?」

「ああ」

「そうですか、お疲れさまでした。大変なお仕事だし、帰ってゆっくりされてください。では、失礼します」

春音は笑顔をつくると、軽く会釈して踵を返した。

『なんで私の気持ちが分かるんだろう。暴君のくせに……調子狂っちや』

「待てよ」

湊人は春音の前に立ち塞がった。

「怖いんだろう? 我慢するな」

ぶっきらぼうだけど、温かさを感じる湊人を前に、張り詰めていた春音の感情が、堰を切ったように溢れ出した。

「怖い……怖いです。また襲われるんじゃないかって、突然考えたりするんです。さっきまで平気だったのに、急に思い出したりして、凄く怖いです」

涙で視界が滲む。

そんな春音を湊人はギュッと抱きしめた。

『え……』

湊人の鼓動が春音の全身を伝う。
ドクンドクンと脈打つ心音は、春音の強張りをほぐし、心地よささえ感じさせた。

「どう、して…… どうしてですか? こんなこと……」

「わからない。どうしてだろうな……」

顔を上げると、これまでの湊人からは想像できないほどの柔らかい表情で春音を見下ろしていた。
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