無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
通路の一番奥が湊人の部屋だった。
鍵を開け、春音を先に部屋へ入れると、廊下の照明を灯した。

「どうぞ、上がって。スリッパはないけど」

「すみません、お邪魔します」

部屋の奥へ進むと、少し広めのベッドが部屋の真ん中で存在を主張していた。一般的なテーブルやソファーもない。
大きめのテレビが壁に掛けられただけの生活感のない部屋だ。
対面式キッチンになっていて、カウンターテーブルにはバーにあるような回転式の椅子が二脚並んでいた。

全体的に、ダークグレーを基調としたモノトーンの部屋だ。

部屋を見回した春音は重大なことに気づく。

「あ、あのぅ」

「ん?」

「私、ここで生活していいってことですよね?」

「ああ」

「鷹屋さんはここで生活しているんですよね?」

「そうだが」

「……」

「どうした?」

「私、どこに寝ればいいのでしょうか?」

「ベッドに寝ればいいだろう」

「ベッドって、このベッドですよね?」

「まぁ、これしかないからな」

「私がこのベットに寝たら、鷹屋さんの寝る場所がなくなってしまいますが」

「あぁ、俺ね。寝袋あるし、問題ない」

「はい⁉︎ 問題大ありでしょう! 寝袋なんかで寝てたら疲れ取れませんよ!」

「私、やっぱり帰ります。ご迷惑はおかけできません。お気持ちだけ、いただいておきます。それでは、お邪魔しました」

慌てて部屋を出ようとする春音の腕を、湊人は咄嗟に掴んでいた。

「行くなよ」

「え?」

「行くな」

「鷹屋さん?」

『どうしたのだろう、暴君らしからぬ消え入りそうな声で、視線を合わせてくれない」

「心配……」

「え?」

「心配なんだよ!」

先ほどとは全く違った投げやりな物言いに、春音は目を瞬いた。
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