無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
「ご、ごめん、大きな声出して」

「いえ、大丈夫です」

「腹減っただろう? なんか作るわ」

「え! 作る⁉︎」

「大したもんはできないけど、焼きそばくらいなら」

『うそ……料理するんだ、信じられない』

心の中で呟いていたつもりだが、最後の「信じられない」
はどうやら漏れていたようだ。

「信じられない、か……まぁ、そうかもな」

春音は慌てて口を塞いだ。

「ごめんなさい」

「なんで謝るんだよ。風呂、入るか?」

「いいえ、手伝います」

「んじゃ頼むわ」

キッチンに移動すると、湊人は手際よく準備を始めた。
冷蔵庫には調味料や食材が几帳面に並べられている。

独身男性といえば、ビールが無造作に置かれているだけの冷蔵庫。そんな春音のイメージが大きく覆された。

「ごめん、一番下に野菜入ってるからとってくれるか?」

「は、はい」

下段の冷蔵庫を開け、焼きそばに必要な野菜を取り出そうとした時、春音のイメージが更に覆された。
キャベツの芯には切り込みが入れられ長期保存できるようになっていて、根菜は立てて保存されていた。
そっと冷凍庫を開けてみると、保存用袋に入ったきのこ類が、行儀よく整列している。

『凄っ! 部屋も凄く綺麗にしてるし、もしかしてハイスペ男子?』

湊人に視線を移すと、手元には調理器具があり、その中にはもちろん包丁もあった。

その包丁に視線が移った瞬間、刃物を持った男の姿が脳裏によみがえり、春音の身体が震え出した。
春音の異変を察した湊人はすぐに包丁を隠すように置き、春音を胸に引き寄せ、視界から外した。

「ごめん、配慮に欠けていた。本当にごめん」

春音の背中をさすりながら、震えが治るまでずっと抱きしめていた。
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