無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
抱きしめられていた春音は、いつの間にか、恐怖が心地よい感覚に変化していることに気がついた。

「どうしてそんなに優しくしてくれるんですか?」

「なんでだろうな……」

「ありがとうございます。もう大丈夫です」

「俺、君に謝ろうと思っていたんだ」

「え?」

「酷いこと言った」

「ブス、邪魔、ですか?」

「悪かった。花もダメにしてしまって、ごめん」

「実は、ブスって言われた時、昔のことを思い出して凄くショックでした。私、中学高校とすごく地味で、根暗とか、それこそブスだとか言われてたんです。良い思い出なんか一つもない暗黒期だったから……」

「そうか……」

春音は顔を上げ、湊人に笑顔を向けた。

「謝ってくれてありがとうございます。凄く嬉しいです。ホント、鷹屋さんは優しい男性(かた)ですね」

「なぁ」

「はい?」

「湊人、鷹屋さんじゃなく、湊人でいい」

「湊人、さん?」

「さんはいらない」

「それは無理です。呼び捨てなんて出来ません」

「なんで?」

「なんでと言われましても……」

「俺は、春音でいい?」

「いいですよ」

「春音」

「はい」

「良い名前だな」

「湊人さんも素敵な名前ですね」

微笑む春音を湊人の穏やかな眼差しが包み込んでいるようだった。

結局、湊人が焼きそばを使っている間に、春音はシャワーを浴びた。
二人で並んで食事をし、湊人がシャワーを浴びている間に春音がキッチンを片付けた。

黒のスウェット姿でボディーソープの香りを纏った湊人は男の色気がダダ漏れで、視線と気持ちのやり場に困った春音は、会話で紛らすことに全力を注いだ。
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