無愛想な末っ子御曹司の溢れる愛
ビル風に揺れる木々の隙間から、タカヤホテルのフォトジニックな外観が姿を現す。相変わらずの存在感だ。

ホテルへの配達は特に指示がない限り、洗練された正面エントランスではなく、通常は裏手にある業者用の出入口を使用する。
ホテル手前にあるオープンカフェを過ぎると、左手に路地があり、社員や業者はその路地を利用するのだ。

春音はオープンカフェにさしかかったところで、

『結構大きいから腕が疲れちゃったな』

立ち止まり体制を整えた。
そして、一歩踏み出したその時、

「きゃーーーっ!!!」

背後から女性の悲鳴が聞こえた。

『えっ! 何⁉︎』

振り返ると、スウェット姿の男が春音の目前に迫っていた。手には刃物が握られている。

「ひっ!」

距離はあっという間に縮まり、フラワーアレンジを抱きしめたまま立ちすくむ春音は男に拘束された。

「来るなっ! 止まれっ!」

男は春音を盾に、追いかけてきた男性に刃物を向け、声を張り上げ威嚇した。

男と対峙する男性は長身で、チャコールグレーのスーツにノーネクタイ。アップバング気味の黒髪は端正な顔を引き立たせている。その端正な顔は恐ろしいほど無表情で、男を見据える目は氷のように冷く感じられた。

『この人はきっと警察官なのだろうけど、なんだか犯人より怖い……』

人質にされているにも関わらず、春音は男性を観察できるほど冷静だった。
"早く届けなければ間に合わない" その義務感の方が恐怖より勝っていたからだ。
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